1.前立腺肥大症とは
ここからは前立腺肥大症の概要について解説します。
1-1.前立腺とは男性のみにある臓器のこと
前立腺は、男性にのみに存在する臓器です。膀胱のすぐ下にあり、尿の通り道である尿道をドーナツのように取り巻いています。正常な前立腺はクルミほどの大きさで、20mlくらいの大きさです。
前立腺から分泌される前立腺液によって精子に栄養を与え活発にさせたり、膀胱の出口を開け閉めすることで排尿したりすることが、前立腺の役割です。
1-2.前立腺肥大症とは
前立腺は尿道を取り巻く内側部分と、それを包み込む外側部分の二層構造になっています。
前立腺肥大症は、内側部分が肥大して尿道や膀胱を圧迫し、頻尿や残尿感などさまざまな排尿トラブルを引き起こす病気です。
肥大は40代から始まり、80歳になるまでに約80%の人が前立腺肥大になるとされています。歳を重ねると前立腺が肥大することについて、はっきりとした原因はまだわかっていません。
ただし、これまでの研究から、症状の悪化に男性ホルモンが関わっていることはほぼ確実と考えられています。
2.前立腺肥大症のおもな症状
前立腺肥大症の自覚症状で多いのは尿の出にくさです。
肥大した前立腺が尿道を圧迫し、尿の通り道が細くなると、排尿までの時間がかかるようになります。また、症状が進行すると尿がまったく出なくなることもあります。
なお、この症状は、これから解説する第1期から3期ある段階の3期に相当するものです。こうなる前段階として別の症状が現れるケースもあるので、日頃から排尿について意識してみるとよいでしょう。
2-1.第1期・膀胱刺激期
夜間に1回以上トイレに行く状態を夜間頻尿と呼びます。何度も目が覚めるためぐっすり眠れないと悩む人もいる症状です。
さらに、急にトイレに行きたくてたまらなくなり(尿意切迫)、間に合わなくて尿が漏れてしまうこともあります(切迫性尿失禁)。
また、尿の出にくさを感じるだけでなく(軽度排尿困難)、トイレに行ってもなかなか尿が出ない(遷延性排尿)、排尿が終わるまでに時間がかかる(苒延性排尿)などの症状が現れるケースも見られます。
2-2.第2期・残尿発生期
排尿したはずなのに残っているように感じるのが残尿感です。なかには、お腹にしっかり力を入れないと尿が出にくい方(腹圧排尿)、極度に緊張した際に症状が出やすい方もいます。
飲酒や長時間座ったあと、強く緊張したときに尿が出なくなる(尿閉突然出現)ケースもあります。
2-3.第3期・慢性尿閉塞期
この頃になると、膀胱の収縮力低下により尿の出づらさ(排尿困難)や尿意を感じにくくなるだけでなく、ダラダラと尿が漏れてしまう(溢流性尿失禁)などの症状に悩む方もいるでしょう。
残尿は日常が不便になるだけでなく、細菌感染症になりかねません。また、尿閉(尿が出にくくなる)は腎機能にも悪影響をおよぼすため、放っておくと尿毒症になるおそれもあります。
3.前立腺肥大症の治療法
前立腺肥大症の治療はおもに、薬物治療と手術療法です。一般的には、まず薬物療法を行ない、症状が改善しない場合は手術療法を検討します。
3-1.薬物治療
排尿トラブルの原因は、尿道の周りの肥大した前立腺による尿道の圧迫です。排尿トラブルの治療には、尿道の筋肉や前立腺をゆるめる薬を使います。
3-2.手術療法
手術療法は、肥大した前立腺を削り取ることで尿道の圧迫を改善させるものです。最近ではレーザー治療を導入する病院も出てきました。
レーザー治療は、電気メスによる手術よりも出血が少なく、削り残しも少ないため、術後の再発を抑えるメリットがあります。また、入院期間も短くなり、仕事で忙しい方も手術が可能です。
4.前立腺肥大症の予防法
前立腺は加齢によって肥大しやすくなりますが、生活習慣を見直すことで前立腺肥大症の予防・緩和につながります。
4-1.適度な運動
長時間の座りっぱなしは排尿トラブルの原因になりえます。デスクワークが長引きそうなときは、立ち上がるなど、こまめな休憩を入れるとよいでしょう。
軽いウォーキングや、手軽にできるストレッチを生活に取り入れるのもおすすめです。
4-2.適度な水分を摂る
水をたくさん飲むと、トイレの回数が増えるため、水分を摂り過ぎないように注意します。また、尿意を感じた場合は我慢せずにすみやかにトイレへ向かいましょう。
4-3.食生活を整える
穀物・野菜・大豆に含有するイソフラボノイドには前立腺肥大症の予防効果が期待されています。また、便秘は排尿トラブルを悪化させるものです。便通を良くするためにも野菜たっぷりの食生活を心がけましょう。
4-4.薬を飲むときは医師に相談を
すでに前立腺肥大症の症状が現れている方は、薬を飲むときは注意しましょう。薬を飲む前にはかかりつけの医師に相談しましょう。
前立腺肥大症への対処法を知って過ごしやすい毎日に
前立腺は加齢によって肥大しやすく、多くの中高年の男性が悩まされています。デリケートな悩みであるため、なかなか人に相談できずに悩んでいる方もいるでしょう。
しかし、トイレのたびに不快な思いをし、日々の生活を楽しめないのはもったいないことです。症状が続いて生活に支障が出る場合は、早めに医師へ相談することをおすすめします。
監修者情報
氏名:梅村 将成(うめむら・まさなり)
外科医として地方中核病院に勤務中。
消化器外科のみならず総合診療医として、がん治療(手術・抗がん剤・緩和治療/看取り)を中心に、幅広く内科疾患・救急疾患の診療を行なっている。
資格:医師免許・外科専門医・腹部救急認定医