目次
1.油のおもな働き
油は、3大栄養素の「脂質」に分類され、おもにエネルギー源として使われます。脂質は、人間が必要とするエネルギーの約25%を賄うほか、代謝で重要な生理活性物質や細胞膜の構成成分としても重要です。
また、脂質は水分を除いた脳の約70%を占めており、カロテノイドや脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の吸収をサポートする役割も担っています。
油は、「太りやすい」「体によくない」というイメージから、摂取を控えている方も多いでしょう。しかし、種類によっては、むしろ体にいいとされる油もあり、単純に油を控えれば健康的とはいえません。
今回は、油のおもな働きや種類、体にいいとされる油を含む成分について解説します。
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油は、3大栄養素の「脂質」に分類され、おもにエネルギー源として使われます。脂質は、人間が必要とするエネルギーの約25%を賄うほか、代謝で重要な生理活性物質や細胞膜の構成成分としても重要です。
また、脂質は水分を除いた脳の約70%を占めており、カロテノイドや脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の吸収をサポートする役割も担っています。
脂質は、おもに脂肪酸、中性脂肪、リン脂質、糖脂質、ステロール類に分類されます。なかでも脂肪酸は、体内で代謝されエネルギー源になったり、細胞膜の構成成分になったりする重要な物質です。
ここでは、脂肪酸の一種である飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸について、それぞれの特徴を解説します。
飽和脂肪酸とは、炭素間に二重結合を持たない脂肪酸です。乳製品、肉などの動物性脂肪や、パーム油といった植物油脂に多く含まれています。食ベ物から摂取した脂質は十二指腸で脂肪酸に分解され、それにより飽和脂肪酸を合成できるため必須栄養素ではありません。
飽和脂肪酸は、摂りすぎるとLDLコレステロールが増加します。LDLコレステロールは重要なエネルギー源の一つですが、肥満の危険因子であることも知っておきましょう。
なお、食事摂取基準では、現在の日本人が摂取している飽和脂肪酸量を測り、その中央値を目安量の上限に設定しています。
一価不飽和脂肪酸とは、炭素間に二重結合を持つ不飽和脂肪酸のうち、二重結合を1つ持つ脂肪酸です。一価不飽和脂肪酸は食事で摂取するほか、体内にある飽和脂肪酸から生成できるため必須脂肪酸に含まれず、摂取の目安量や目標量も設定されていません。
一価不飽和脂肪酸のなかでは、オレイン酸がよく知られています。オレイン酸には血液中のLDLコレステロールを減少させる効果があるといわれており、オリーブ油に多く含まれています。
多価不飽和脂肪酸とは、炭素間の二重結合を2つ以上持つ脂肪酸で、n-3系脂肪酸やn-6系脂肪酸などに分けられます。
鎖のように結合した炭素のうち、最初の二重結合が端から数えて3個目と4個目の炭素間にある多価不飽和脂肪酸です。
n-3系脂肪酸には、ドコサヘキサエン酸(DHA)、α-リノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、イコサペンタエン酸(IPA)などがあります。α-リノレン酸が体内で変化したものがDHA、IPAです。
n-3系脂肪酸は必須脂肪酸であり、体内で合成できません。妊婦の場合は、胎児を成長させるためにより多くのn-3系脂肪酸を摂取する必要があります。また、授乳婦も、母乳中にn-3系脂肪酸が含まれるよう、十分な量の摂取が必要です。
妊婦・授乳婦の方は、食事摂取基準の目安量を確認しておくとよいでしょう。なお、食事摂取基準の目安量は、日本人が摂取するn-3系脂肪酸量の中央値をもとに設定されています。
最初の二重結合が端から数えて6個目と7個目の炭素間にあるものを指します。
n-6系脂肪酸には、リノール酸やリノール酸の代謝物であるγ-リノレン酸、アラキドン酸(ARA)などがあり、n-3系脂肪酸と同様に体内で合成できない必須脂肪酸です。日本人が食事で摂るn-6系脂肪酸は、リノール酸が98%を占めるといわれています。そのおもな摂取源は、コーン油や大豆油などの植物油です。
食事摂取基準における目安量もn-3系脂肪酸と同じく、日本人が摂取するn-6系脂肪酸量の中央値をもとに定められています。
不飽和脂肪酸は、血栓を防ぐ、血圧を下げる、LDLコレステロールを減少させるなど、さまざまな効果が期待できるでしょう。
しかし、空気や熱、光で酸化しやすい特徴があり、高温で調理すると空気中の酸素により過酸化脂質になるので注意が必要です。不飽和脂肪酸を含む油は、炒め物や揚げ物よりドレッシングなどに使用するとよいでしょう。
脂質のなかでも不飽和脂肪酸は、体にいい影響を与えるでしょう。ここでは、代表的なものとして注目されているDHA、EPA、ARAの特徴を解説します。
ドコサヘキサエン酸(DHA)は脂の多い青魚に豊富に含まれる必須脂肪酸で、体内では脳や精子、神経組織などに多く存在している物質です。
ドコサヘキサエン酸(DHA)は、心臓に血液を送る冠動脈の血流が悪くなり心臓の障害を引き起こす、冠状動脈疾患に対して有効性が期待できるでしょう。
ドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量が多い食品は、下表のとおりです。
ドコサヘキサエン酸(DHA)を多く含む食品(生の可食部100gあたり)
食品 | ドコサヘキサエン酸(DHA)含有量 |
---|---|
くろまぐろ(脂身) | 3200mg |
たいせいようさば | 2600mg |
さんま(皮付き) | 2200mg |
ぶり | 1700mg |
さわら | 1100mg |
(文部科学省「食品成分データベース」をもとに作成)
ドコサヘキサエン酸(DHA)は適量を摂れば問題ありませんが、大量に摂取すると副作用の危険性があるとされているため注意しましょう。
ドコサヘキサエン酸(DHA)を含む魚油を大量摂取した場合、鼻血、げっぷ、吐き気、軟便といった有害事象の報告があります。サプリメントで摂取する際は、ドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)合わせて一日に摂取すべき適量を守るようにしましょう。
エイコサペンタエン酸(EPA)は、イワシといった青魚に含まれる必須脂肪酸で、脂質異常症、アトピー、アレルギー症状などに良いといわれています。また、ドコサヘキサエン酸(DHA)同様、冠状動脈疾患に対しても有効性が期待できるでしょう。
エイコサペンタエン酸(EPA)の含有量が多い食品は、下表のとおりです。
エイコサペンタエン酸(EPA)を多く含む食品(生の可食部100gあたり)
エイコサペンタエン酸(EPA)についても、適量を摂るのは問題ありませんが、大量摂取には注意が必要です。エイコサペンタエン酸(EPA)を含む魚油を大量に摂取することで、鼻血、げっぷ、吐き気、軟便などが起こる可能性があります。
アラキドン酸(ARA)はおもに肉、魚、卵、母乳などに含まれ、欧米といった諸外国では乳児用の調製乳にも付加されている多価不飽和脂肪酸です。体内では、細胞膜を構成するおもな成分の一つとして、脳や肝臓、皮膚などのさまざまな組織に存在しています。
アラキドン酸(ARA)は脳の細胞膜を形成し、細胞膜を柔軟に保つ働きがあるとされているのが特徴です。近年ではさまざまな研究成果により、記憶や学習など、脳の大切な機能の多くにアラキドン酸(ARA)が関わっていることがわかりつつあります。
例えば、高年者が一日240mgのアラキドン酸(ARA)を1カ月間摂取したところ、摂取前と比べて情報処理スピードや集中力が向上したという報告があります。
アラキドン酸(ARA)の含有量が多い食品には、下表のようなものが挙げられます。
アラキドン酸(ARA)を多く含む食品(生の可食部100gあたり)
食品 | アラキドン酸(ARA)含有量 |
---|---|
鶏卵 | 150mg |
若鶏もも(皮付き) | 79mg |
豚もも(脂身付き) | 75mg |
(文部科学省「食品成分データベース」をもとに作成)
油と聞くと、つい悪いイメージが思い浮かぶ方もいるでしょう。しかし、体にいい油があるのも事実です。脂肪酸のなかには、脂質異常症やアレルギー疾患などによいとされる種類もあります。
体に必要な油を選んだうえで、加熱用、非加熱用を使い分けてバランスよく上手に取り入れていきましょう。
氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。
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