1.脚の筋肉を鍛える必要性
ここでは、なぜ脚の筋肉を鍛える必要があるのか、具体的な理由を解説します。
1-1.QOL(生活の質)を高める
QOL(生活の質)は「Quality Of Life」の略で、生活の質を意味する言葉です。脚の筋肉を鍛えることは、QOL(生活の質)の向上に欠かせません。
脚の筋肉は、立つ、動く、姿勢を維持するなど日常動作の基盤ですが、他の部位と比べ、加齢により減りやすいとされています。何も対策をしない場合は、20~80歳にかけて平均で約40%も減少し、少なくなった筋肉で体を支えなければなりません。
その結果、歩くのが遅くなったり、つまずきやすくなったりするなど、日常動作がスムーズにできなくなり、QOL(生活の質)の低下につながるでしょう。
1-2.サルコペニアの予防
サルコペニアとは、加齢にともない筋肉の量が減少していく老化現象です。25~30歳頃から始まり、放置すると歩行が困難になることもあります。また、大腿骨付近の骨折にサルコペニアが合併しているケースも多く、骨折リスクの増加にもつながるでしょう。
サルコペニアは運動により防止できるため、普段から脚の筋肉をしっかり使うことが大切です。
2.脚の筋肉を鍛えるメリット
ここでは、脚の筋肉を鍛えることにより得られるメリットを3つ紹介します。
2-1.基礎代謝の向上
基礎代謝とは、人が生きるために必要とするエネルギー消費量のことで、総エネルギー消費量の約60%を占めています。
体のなかでも大きな筋肉である脚の筋肉を鍛えることで、効率良く基礎代謝を上げられるでしょう。これにより安静時の消費カロリーが増え、痩せやすい体づくりにもつながります。
2-2.むくみの予防
体内の血液は、約7割が下半身に集まっているといわれています。ふくらはぎといった脚の筋肉を鍛えることで、血液を心臓へ戻すポンプの働きをサポートし、血液のうっ滞にともなうむくみを予防できるでしょう。
また、太く見えて気になる方も、脚の筋肉を鍛えることで、太ももを引き締める効果も期待できます。
2-3.冷え性の改善
体の熱の多くは筋肉で作られているため、筋肉量が減少すると冷え性の原因になることがあります。男性に比べて女性のほうが冷え性になりやすいのは、筋肉量が関係していると考えられるでしょう。
3.脚の代表的な筋肉
おもな脚の筋肉として、以下の4つが挙げられます。
3-1.大腿四頭筋
大腿四頭筋(だいたいしとうきん)は、太ももの前面にある大きな筋肉で、膝を伸ばすときに使われます。
また、大腿四頭筋は抗重力筋と呼ばれる、地球の重力に反して姿勢を保つ役割を担う筋肉です。立ったり、歩いたりするときに重要な筋肉であるため、特に意識して鍛えるとよいでしょう。
3-2.ハムストリングス
ハムストリングスは太ももの裏側にあり、膝を曲げるときに使われる筋肉です。
3-3.下腿三頭筋
下腿三頭筋(かたいさんとうきん)はふくらはぎの筋肉で、つま先を下げたり、つま先立ちをしたりするときに使われます。下腿三頭筋も大腿四頭筋と同じく、抗重力筋の一つです。
3-4.前脛骨筋
前脛骨筋(ぜんけいこつきん)はすねの筋肉で、つま先を上げるときに使われます。
4.脚の筋力トレーニング
筋肉は、しっかり鍛えることで強く大きく発達させることが可能です。特に、強化したい筋肉に正しく負荷をかけて鍛えるレジスタンス運動は、筋肉強化の効果が高いといわれています。
動作はゆっくりと行ない、一回(往復)につき10秒程度かけましょう。また、途中で力を抜かず、筋肉の緊張を維持してください。回数は人によって異なりますが、疲労を心地良いと感じる程度にするとよいでしょう。
なお、トレーニングの前にはストレッチなどの準備運動を行ない、体をほぐしてから始めてください。
4-1.大腿四頭筋のトレーニング1(ハーフスクワット)
4-2.大腿四頭筋のトレーニング2(椅子スクワット)
高齢者向けの運動として、椅子からの立ち上がりと座る動作を繰り返す「椅子スクワット」という方法があります。椅子に座ることで自然とお尻を引いた前かがみの姿勢になるため、膝を痛めず安全にトレーニングできるのがメリットです。
4-3.ハムストリングスのトレーニング(ブリッジ)
4-4.下腿三頭筋のトレーニング(つま先立ち)
なお、体の前に椅子を置き、背もたれに両手をかけた状態で行なうと、より安全にトレーニングができます。
4-5.前脛骨筋のトレーニング(トゥーレイズ)
動作中は、体が前に傾き、お尻が後ろに突き出た姿勢にならないよう注意しましょう。
脚の筋肉を鍛えることは「転ばぬ先の杖」
脚の筋肉は年齢とともに衰えやすい傾向があり、意識して鍛えることが大切です。脚の筋肉を強化すると、日常動作がスムーズになりQOL(生活の質)の向上につながるのはもちろん、基礎代謝量の増加やむくみ防止といったメリットも期待できます。
ただし、関節の強度など、体の状態は一人ひとり異なるため、トレーニングをする際は自分に合ったメニューを選び、できる範囲で行ないましょう。
また、トレーニングだけでなく、普段から積極的に体を動かすのも有効です。まずは、脚をよく使う習慣を付けることから始めてみてはいかがでしょうか。
監修者情報
氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。