1.血管腫とは?
「血管腫」と聞くと耳慣れないかもしれませんが、その正体は「アザ」です。
皮膚の一部の色が周囲の皮膚の色と異なっている状態のことをアザといい、色の違いによって「赤アザ」「青アザ」「茶アザ」「黒アザ」などに分けられます。
アザというと、体をぶつけたあとにできる「出血班(打ち身)」をイメージする方もいらっしゃるかもしれません。ただ、出血班(打ち身)は放っておいてもいつの間にか自然に消えてしまうため、特に問題はありません。
医学的にアザというのは、一時的な出血班(打ち身)ではなく、「色の変化が長期に残る」状態のことをいい、通常は生まれつきか、生後間もなく生じる色の変化を指します。
血液が赤いのは、赤血球が存在するからです。この赤血球の色によって赤く見えるアザのことを一般的には「赤アザ」といい、医学的には血管腫と呼ばれています。
血管腫は、体のどの部位にも発生する可能性があるのが特徴で、代表的な血管腫は「単純性血管腫」と「イチゴ状血管腫」があげられます。
単純性血管腫は、生まれたときからある平らな赤アザで、「ポートワイン母斑」とも呼ばれます。イチゴ状血管腫は、生後すぐに生じ、1歳頃までに急激に大きくなったのち、だんだんと小さくなっていくのが特徴です。
血管腫は、単純性血管腫とイチゴ状血管腫のほかにもさまざまな種類があり、それぞれ色や形、自覚症状、発生する年代などに違いがあります。症状としては、見た目の問題以外にも、痛み、熱感、感染、出血、発症部位の変形などが生じる場合があります。
2.血管腫が生じるおもな原因
血管腫が生じる原因には「皮膚の構造」が深く関わっているため、まずは皮膚の構造を確認していきましょう。
皮膚は表面に近いほうから、「表皮」「真皮」「皮下脂肪織」の3層に分けられます。このうち、真皮や皮下脂肪織には、皮膚に栄養や酸素を供給する血管が通っています。
血管中を流れる血液には赤血球が存在し、赤血球にはヘモグロビンという赤い色素が含まれています。何らかの原因で皮膚の中の血管が増え、赤血球のもつヘモグロビンによって赤く見えた状態が「血管腫」、いわゆる「赤アザ」と呼ばれる皮膚の病変です。
しかし、肝血管腫のように原因が確定されていない血管腫も存在します。
3.血管腫を放置するとどのようなリスクがあるのか
イチゴ状血管腫のように自然に消失する血管腫は、「放置すれば良いの?」と考えてしまうかもしれません。
しかし、血管腫は放置して良いケースと、そうではないケースがあるため、要注意です。
ここからは、代表的な血管腫である「単純性血管腫」や「イチゴ状血管腫」を放置したときのリスクを解説します。
3-1.単純性血管腫の場合
単純性血管腫は、自然に消えることはありません。
治療の時期は、基本的にはいつでも良いとされています。しかし、顔や頭にできた単純性血管腫は、大人になってから盛り上がってくる場合があるため、その前に治療を行なうべきとされています。
上まぶたにできた単純性血管腫は、眼圧(眼球の内圧)を上昇させ、視力障害を引き起こす可能性があります。上まぶたにできている場合は、なるべく早めの治療が必要です。
3-2.イチゴ状血管腫の場合
イチゴ状血管腫は、生後2~3週間、遅い場合でも生後3カ月以内に発生します。いったん生じると、1~2週間で急速に大きく盛り上がっていきます。生後6カ月から1年でサイズが最も大きくなりますが、やがて中央部からだんだんと小さくなり、見た目にもほとんどわからなくなる場合が多いのが特徴です。
そのため、イチゴ状血管腫は原則として治療を行なう必要はありません。
しかし、なかなか消えない場合は皮膚萎縮や瘢痕(はんこん)などを残すことがあるので、7歳以降に残っているイチゴ状血管腫は、治療を受ける必要があります。
耳、鼻、唇にできた場合は、潰瘍や皮膚の欠損になる可能性があります。部位によっては気道閉塞、摂食障害を引き起こすこともあるため、このようなケースは放置せずに治療を受けなければなりません。
血管腫を疑ったらまずは受診を
何らかの原因で皮膚に存在する血管が増え、血液中のヘモグロビンによって色が赤く見えているアザのことを「血管腫」といいます。
血管腫には、自然に消えていくものや、レーザー治療が必要なもの、見た目の問題以外にも痛みや出血といった症状が出るものなど複数の種類があり、皮膚科での治療が必要になる場合もあります。
なかなか消えない肌の赤みは、血管腫かもしれません。気になる症状がある方は、一度受診してみてはいかがでしょうか?
監修者情報
氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。