1.パントテン酸とは?
パントテン酸という名称は、「どこにでもある」という意味のギリシャ語から名付けられました。その名が示すとおり、さまざまな食品に存在する水溶性のビタミンです。
食品に含まれるパントテン酸の大部分は、コエンザイムA(CoA)の構成成分として存在しています。その他、ホスホパンテテインのようにタンパク質と結合した形で存在しているものもあります。CoAや結合しているタンパク質は、食材が調理、加工される過程や、胃で消化される過程で取り除かれます。そのあと、腸に存在する酵素によってさらに消化され「パントテン酸」に変換され、吸収されるのです。
2.パントテン酸の働き
パントテン酸は食事から摂取できるだけでなく、一部は腸内細菌によって合成されています。
体内での働きとしては、CoAやホスホパンテテインといった補酵素の構成成分として、エネルギーを作り出す「代謝」に深く関わっています。
パントテン酸は、「炭水化物」「脂質」「タンパク質」すべての代謝を促進させるのが特徴です。特に脂質をエネルギーとして利用する際には欠かせない栄養素です。
ほかにも、神経中枢の発達を補助したり、傷の治りを良くしたりといった効果もあり、「皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素」としてサプリメントにも含有されています。
3.パントテン酸が不足するとどうなる?
体内でエネルギーを生み出すために重要なパントテン酸ですが、不足するとどうなってしまうのでしょうか?
パントテン酸はさまざまな食品に含まれているため、極端な食事をしない限り欠乏することはありません。しかし、食材が精製されるにつれて失われるビタミンのため、精製食品を多く摂る食生活を送っている人は要注意です。
パントテン酸が体内で不足すると、パントテン酸を構成成分とするCoAの濃度が低下します。その影響で、発育への影響や副腎の傷害などが起こるとされています。その他にも、手足のしびれや頭痛、不眠、疲労感、胃の不快感をともなう食欲不振などが知られている症例です。
4.パントテン酸の一日摂取量目安
パントテン酸の不足は避ける必要があることがわかったものの、一体どのぐらいの量を一日に摂取すればよいのでしょうか?
各年齢別の食事摂取基準 (日本人の食事摂取基準2020年版)では下記のとおり、一日の摂取目安量として、20~40代の男女は5㎎/日、50代以降は男性6㎎/日、女性5㎎/日が設定されています。目安量とは、「特定の集団において不足状態を示す者がほとんど観察されない量」として定められた量のことです。
性別 |
男性 |
女性 |
年齢等 |
目安量 (AI) |
目安量 (AI) |
0~5 (月) |
4 |
4 |
6~11 (月) |
5 |
5 |
1~2 (歳) |
3 |
4 |
3~5 (歳) |
4 |
4 |
6~7 (歳) |
5 |
5 |
8~9 (歳) |
6 |
5 |
10~11 (歳) |
6 |
6 |
12~14 (歳) |
7 |
6 |
15~17 (歳) |
7 |
6 |
18~29 (歳) |
5 |
5 |
30~49 (歳) |
5 |
5 |
50~64 (歳) |
6 |
5 |
65~74 (歳) |
6 |
5 |
75以上 (歳) |
6 |
5 |
妊婦 |
|
5 |
授乳婦 |
|
6 |
※1歳未満は目安量
※推奨量:ある性・年齢階級に属する人々のほとんど(97~98%)が1日の必要量を満たすと推定される1日の摂取量
※目安量:推定平均必要量・推奨量を算定するのに十分な科学的根拠が得られない場合に、ある性・年齢階級に属する人々が、良好な栄養状態を維持するのに十分な量
※上限量:ある性・年齢階級に属するほとんどすべての人々が、過剰摂取による健康障害を起こすことのない栄養素摂取量の最大限の量
引用:厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
5.パントテン酸を多く含む食べ物
パントテン酸が多く含まれるおもな食品は以下のとおりです 。
食品 |
100gあたりに含まれるパントテン酸(mg) |
しいたけ(乾燥) |
8.77 |
納豆 |
3.60 |
アボカド |
1.55 |
卵 |
1.16 |
豆乳 |
0.28 |
(文部科学省「食品成分データベース」をもとに作成)
パントテン酸は熱に不安定な性質を持つため、食材の加熱し過ぎは避けたほうがよいでしょう。
パントテン酸は健康維持におすすめの栄養素
パントテン酸は、さまざまな食品に含まれる水溶性のビタミンです。
体内での働きとしては、エネルギーを作り出す「代謝」に深く関わっています。ほかにも、中枢神経の発達を補助したり、傷の治りを良くしたりといった効果もあり、健康維持には欠かせない栄養素の一つです。
パントテン酸が体内で不足すると、発育への影響や副腎の傷害、手足のしびれ、頭痛、不眠などが起こりえます。
通常の食生活で欠乏することはないとされていますが、精製食品の摂取が多い食生活を送っている人は要注意です。不足しないように注意する必要があります。
パントテン酸をはじめとするビタミンは、体の調子を整えるうえで基本となる栄養素です。不足しないようにしっかり補給し、健康な毎日を送れるようにしましょう。
監修者情報
氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。