目次
1.ナイアシンとは
ナイアシンは、ニコチン酸とニコチンアミドの総称です。水溶性ビタミンに分類され、体内で脂質、アミノ酸の代謝などをサポートするほか、酸化還元反応に関わる補酵素としての役割を有しています。
ナイアシンを摂取するには、食品からの摂取と、必須アミノ酸であるトリプトファン由来の方法があります。
トリプトファンからの摂取方法としては、体内で必須アミノ酸のトリプトファンから生合成ができるほか、食品に含まれるトリプトファンの1/60がナイアシンに変化することで摂取が可能とされています。
食品からの摂取についての詳細は後述しますので、併せてご確認ください。
2.ナイアシンのおもな働き
ナイアシンは、体内でのさまざまな反応を助ける働きがあります。こちらでは、ナイアシンのおもな働きを紹介します。
2-1.ATP産生への関与
ナイアシンを構成するニコチン酸やニコチンアミドは、体内でピリジンヌクレオチドと呼ばれる物質に生合成されたあと、さまざまな作用を呈します。その作用の一つが、ATP(アデノシン三リン酸)の産生への関与です。
ATPは、筋肉の収縮など生命活動維持のためのエネルギーを蓄えたり、利用したりすることに関わる物質です。しかし、体内に貯蔵できるATPはごくわずかだとされ、身体のなかではATPを産生するさまざまな仕組みが備わっています。ナイアシンも分解していく過程で、そのATPの産生の仕組みに関わっているのです。
2-2.神経保護的作用
ナイアシンは、マクロファージと呼ばれる細胞から有効な物質の産生を促し、神経保護的に作用するといわれています。
3.ナイアシンが不足することで生じる症状
ナイアシンは不足すると、皮膚炎や下痢を発症することがわかっています。
ナイアシン不足は、トリプトファンの含有量が少ないとうもろこしを主食としている地域によく見られます。日本を含む先進国においては、アルコール依存症によってナイアシン不足が見られるケースもあります。
4.ナイアシンの一日の摂取量
食事によるナイアシンの摂取基準は、ナイアシン当量(mgNE)という単位で示されます。
ナイアシンの食事摂取基準(mgNE/日)
年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
0〜5ヶ月 | 2 | 2 |
6〜11ヶ月 | 3 | 3 |
1〜2歳 | 6 | 5 |
3〜5歳 | 8 | 7 |
6〜7歳 | 9 | 8 |
8〜9歳 | 11 | 10 |
10〜11歳 | 13 | 10 |
12〜14歳 | 15 | 14 |
15〜17歳 | 17 | 13 |
18〜29歳 | 15 | 11 |
30〜49歳 | 15 | 12 |
50〜64歳 | 14 | 11 |
65〜74歳 | 14 | 11 |
75歳以上 | 13 | 10 |
(厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」を元に作成)
※1歳未満は目安量、1歳以上は推奨量を記載。
4-1.ナイアシンの摂取状況
令和元年の国民健康・栄養調査によると、男性のナイアシン平均摂取量は33.6mg/日、女性は28.0mg/日(ナイアシン当量)であるため、多くの日本人は、推奨量を満たしています。
4-2.ナイアシンの過剰摂取について
ナイアシンを構成するニコチンアミド、ニコチン酸は、食品中におおむね以下の量が含まれています。
-
・ニコチンアミド
動物性食品に多く見られ、多くても可食部100g中10mgほど
-
・ニコチン酸
植物性食品に多く見られ、多くても可食部100g中数mgほど
上記のことから、通常の食品を摂取していれば過剰摂取とはならず、健康被害につながったという例も報告されていません。ナイアシンの過剰摂取が起きる要因として、ナイアシンの強化食品などを摂取している場合が考えられます。
ナイアシンを構成するニコチン酸を過剰摂取した場合、一時的に顔の紅潮、かゆみなどが見られます。強化食品などでナイアシンを摂取する場合には、過剰摂取に注意し、体調変化が起きたら医療機関へ受診してください。
5.ナイアシンが多く含まれている食べ物
以下は、ナイアシンが多く含まれている食品です。ナイアシンを不足しないように摂取するためには、バランス良くさまざまな食材を食生活に取り入れることが重要です。
5-1.植物性食品
食品名 | 1食あたりの重量(g) | 1食あたりのナイアシン (ナイアシン当量)(mg) |
---|---|---|
玄米めし | 150 | 4.4 |
落花生(いり) | 15 | 3.5 |
発芽玄米 | 150 | 3.0 |
スイートコーン(電子レンジ) | 100 | 2.4 |
ひらたけ(ゆで) | 30 | 2.1 |
ぶなしめじ(油炒め) | 30 | 2.0 |
そば(ゆで) | 200 | 1.0 |
アーモンド(フライ味付け) | 15 | 0.7 |
(文部科学省「日本食品標準成分標2020年版」を元に作成)
5-2.動物性食品
食品名 | 1食あたりの重量(g) | 1食あたりのナイアシン (ナイアシン当量)(mg) |
---|---|---|
たらこ(生) | 40 | 20.0 |
鶏むね 皮付き(焼き) | 100 | 17.0 |
かつお(生) | 80 | 15.2 |
豚ヒレ(焼き) | 100 | 13.0 |
くろまぐろ 赤身 | 70 | 9.8 |
さんま(焼き) | 100 | 9.8 |
ぶり(焼き) | 80 | 8.0 |
かつおフレーク油漬 | 35 | 5.3 |
(文部科学省「日本食品標準成分標2020年版」を元に作成)
ナイアシンは比較的安定した物質のため、調理・保存によって効力が失われることはほぼないといっていいでしょう。
しかし、ニコチンアミドやニコチン酸の状態では、水には温度に比例して溶けやすく、煮物の調理において煮汁中に7割が、肉類を揚げものにすると、2~4割ほどのニコチンアミドが油へ、それぞれ移行するとされています。
ナイアシンの摂取を意識した食事を作る場合は、その調理方法を考慮することも大切です。
ナイアシン不足に注意しよう
ナイアシンは、ATP産生への関与、神経保護作用などがおもな働きとしてあります。不足すると皮膚炎や下痢が現れるので、不足しないように注意が必要です。
ナイアシンは通常の食生活では不足しませんが、偏った食生活やアルコール依存症などで不足する可能性があるので、バランスの良い食生活を意識してみてください。