1.筋肉量の減少が始まる年齢
筋肉量の減少は25~30歳頃から始まり、年齢を重ねるにつれて進行します。
加齢によって筋肉量が減っていく現象は、近年「サルコペニア」と呼ばれています。広背筋や腹筋、お尻周辺の臀筋群など、抗重力筋と呼ばれる筋肉に現れやすい症状として知られています。
抗重力筋が衰えてしまうと、立つことや歩くことが難しくなり、活動能力が低下する原因となります。
具体的な症状としては、手足が細くなる、椅子から立ち上がりにくい、重い荷物が持ちにくくなる、といったものがあります。日常でつまずくことが増えると単なる注意不足と思われることがありますが、筋力低下が原因のこともあるため注意が必要です。
サルコペニアの進行を抑えて、QOL(生活の質)を向上させるために、抗重力筋のような日常生活で使われる筋肉を普段からトレーニングをしておくことが大切です。
2.筋肉量を維持するためのトレーニング
それでは、具体的にどのようなトレーニングが筋肉の減少に対して有効なのでしょうか。ここでは、レジスタンス運動とスロートレーニングという2つの方法を紹介します。
高齢者であっても、筋力トレーニングにより筋力アップ・脂肪の減少・生活習慣病や嚥下機能の改善・腰痛や膝痛の改善など、さまざまな効果が期待できます。
トレーニング方法や種類について理解を深め、無理のない範囲で取り組んでみましょう。
2-1.レジスタンス運動
レジスタンスとは「抵抗」という意味であり、筋肉に抵抗をかける動作のことをレジスタンス運動といいます。レジスタンス運動には、スクワットや腕立て伏せのように体重を利用して行なうものと、ダンベルやマシンといった器具を用いて行なうものがあります。
体重を利用した方法のほうが手軽に行なうことができます。
スクワットであれば、机に手をついたり、しゃがんだりする範囲を浅くしたりして、負荷を調節しながら行ないましょう。その他には腕立て伏せやかかと上げなどにより、体幹や大殿筋などの抗重力筋に負荷を与えることができます。
レジスタンス運動は強めの負荷を筋肉に与えるため、回復期間を設ける必要があります。目安としてはトレーニングをしたら2~3日空けて、継続的にトレーニングを行なうとよいでしょう。
2-2.スロートレーニング
筋肉に力が入った状態を維持して少しずつ動く、レジスタンス運動の一つです。例えば、「空気椅子」をしているときのように、力を入れ続けた状態でトレーニングを行なうことをイメージすると理解しやすいでしょう。(空気椅子とは、何もない空間で椅子に腰をかけているような姿勢をとって維持することです。)
自身の体重を利用したレジスタンス運動では、筋肉の増強などに対する効果は限定的と考えられていましたが、同じ動きであってもゆっくり動くことで、効率良く筋肉に負荷を与えることが可能です。
加えて、腱や関節への負担が小さく傷害の危険性も低いため、中高齢者にとっても行ないやすい運動であると考えられています。
スロートレーニングでは力を入れ続けた状態で、ゆっくりと行なうことが大切です。「4秒前後かけて上げて、4秒前後で下げる」イメージで行ないましょう。
また、スクワットや腕立て伏せをするときは、膝や腕を伸ばし切ると休んでしまうため、あえて伸ばし切らずに力が入った状態をキープし続ける方法もあります。
3.高齢者が筋力トレーニングをする際の注意点
高齢の方がトレーニングする際は、自身に合った適切な負荷を意識しましょう。
筋力トレーニングでは強い負荷をかけることが有効とされていますが、高齢の方は筋肉が傷つきやすいため、ケガなどにつながるおそれがあります。
また、運動習慣がない方にとって、いきなりレジスタンス運動を始めるのは難しく感じるかもしれません。運動を習慣づけるためにも、まずはラジオ体操やウォーキングなどの軽い運動から始めるとよいでしょう。
加齢にともなう筋肉量の減少を防ぐトレーニングを継続しよう
この記事では、筋肉量の減少が始まる年齢や筋力維持のためにできるトレーニング、そして高齢の方がトレーニングをするときの注意点について紹介しました。
筋肉は25~30歳から減り始めます。特に、日常生活に必要な抗重力筋から減りやすいため、継続的にトレーニングを行なうことが大切です。
筋力アップのためのトレーニングには、レジスタンス運動が効果的です。そのなかでも、自分の体重を使い、より効率的かつ安全に負荷をかけられるスロートレーニングを行なうとよいでしょう。
ただし、運動習慣のない方がいきなりレジスタンス運動に取り組むと、運動を継続できない場合があるため、軽い運動から始めて、運動の習慣を作ることをおすすめします。
筋肉量の減少を防ぐために、適切な負荷のトレーニングを継続しましょう。
監修者情報
氏名:高橋健太郎(たかはし・けんたろう)
循環器内科医として臨床に関わりながら、心血管疾患のメカニズムを解明するために基礎研究に従事。現在はアメリカで生活習慣病が心血管疾患の発症に及ぼす影響や心血管疾患の新しい治療法の開発に取り組んでいる。国内・海外での学会発表や論文報告は多数。
日本内科学会認定内科医、日本循環器学会所属。