1.食欲不振が続くとどうなるのか
食欲不振とは、食事をとっていないのにお腹が空かないように感じたり、食事が食べられない・食べる気がしないと感じたりする症状です。通常であれば、食事から時間が経つと血糖値が下がってお腹が鳴り、摂食中枢が刺激されて空腹を実感します。それに対し、何らかの原因で食欲が湧きにくくなるのが、食欲不振です。
一時的な食欲不振は、健康に問題がない人にも起こります。しかし、食欲不振が長期におよび栄養状態が悪化すると、摂取できていない栄養素に合わせた不調が現れる場合があります。食欲不振が進行して適切な処置をしないと重篤化して命にかかわることもあるため注意が必要です。
また、亜鉛や銅といったミネラルの摂取量が少ないと、食欲不振がより悪化するおそれがあります。
2.高齢者の食欲不振の原因
高齢者の食欲不振の原因には、病気・加齢・生活習慣や社会的要因・薬の影響など多岐にわたります。それぞれの特徴を見ていきましょう。
2-1.病気
慢性胃炎・十二指腸潰瘍・胃潰瘍などの消化器の疾患をはじめ、甲状腺機能低下症・慢性腎臓病・電解質異常でも食欲不振になることがあります。また、風邪やインフルエンザなどの感染症も、食欲を感じにくくなる原因の一つです。
さらに、虫歯や口内炎のような口腔内の疾患も食欲不振につながることがあります。
2-2.年齢にともなう変化
年を重ねると若い頃と比べて体の機能が衰え、食欲を感じにくくなります。
原因としてまず挙げられるのは、筋肉量や運動量の低下です。外出の頻度が減ったりすることで、生活に必要なエネルギー量が減ってしまいます。
また、加齢によって内臓の機能が低下し、消化・吸収の機能が衰えてしまうことも要因です。消化・吸収の機能が低下すると下痢や便秘を起こしやすくなり、食欲がわきにくくなります。
2-3.生活習慣や社会的要因
肉体的あるいは精神的なストレス、運動不足や睡眠不足といった生活習慣の乱れは、自律神経の調子を崩して食欲の低下を招きます。
高齢者では、入院や施設入居などの生活環境の変化、大切な人との死別による孤独感などから、食欲不振に陥ることがあります。
昨今、問題視されている高齢者の孤食も、食事の楽しみやおいしさを半減させ、食欲不振になります。
2-4.薬の副作用
鎮痛剤や抗生物質など、高齢者に多い疾患の治療に使われる薬が、食欲に影響をおよぼすことがあります。
このように食欲不振の原因は数多くあり、原因によっては複数の診療科が連携して対応する必要もあるため、自分で判断せずに医療機関に相談するのがよいでしょう。
3.高齢者の食欲不振の予防法とケア
高齢者には、消化機能が落ちているケースが多く見受けられます。そのため、刺激物を避けて、消化しやすい柔らかい食材をメインにとりましょう。食物繊維の多い野菜や固い食材、肉や揚げ物など脂っこいものは控えるのが無難です。固い食材を食べるときは、たたいたり切れ目を入れたりするなどして、下ごしらえで工夫をしましょう。
飲み込む力が弱くなっている場合は、それに合わせてとろみをつけたり、ミキサーで細かくして柔らかくしたりします。また、食事量の減少にともなう脱水にも注意してください。
さらに、食欲を高められるよう料理の見た目や温度、食器への盛り付けにも配慮しつつ、孤食を避け、食事を楽しめる環境づくりを心がけましょう。
高齢者の食欲不振を改善して食事を楽しめる毎日に
高齢者の食欲不振は、病気や加齢、生活習慣、社会的要因などが複雑に絡み合って引き起こされます。食欲不振が進むと、栄養不足になり、命にかかわるような重篤な状態になることもあるため適切な対応が必要です。
高齢者への食事を準備する際は、柔らかく食べやすいように調理を工夫するほか、見た目や香りを楽しめるよう盛り付けにも気を使いましょう。そして、本人が食事に喜びを感じられるように、人と一緒に食事をとれるようにすることも大切です。
高齢者の食欲不振を改善して、食生活を楽しめる毎日につなげましょう。
監修者情報
氏名:高橋健太郎(たかはし・けんたろう)
循環器内科医として臨床に関わりながら、心血管疾患のメカニズムを解明するために基礎研究に従事。現在はアメリカで生活習慣病が心血管疾患の発症に及ぼす影響や心血管疾患の新しい治療法の開発に取り組んでいる。国内・海外での学会発表や論文報告は多数。
日本内科学会認定内科医、日本循環器学会所属。