1.高齢者の肥満の実態とリスクについて
高齢者の場合、実際にどのくらい肥満の人がいるのでしょうか。肥満者の実態やリスクについて解説します。
1-1.国民健康・栄養調査に基づく肥満(BMI≥25)の実態
2019年の国民健康・栄養調査によると、高齢者の肥満者は男女別で以下のような割合になっています。
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男性の肥満者の割合
60~69歳は35.4%
70歳以上は28.5%
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女性の肥満者の割合
60~69歳は28.1%
70歳以上は26.4%
1-2.高齢者の肥満によるリスク
高齢者の肥満は、若年層と同じようにさまざまなリスクがあります。おもな合併症やリスクは以下のとおりです。
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高血圧
肥満によって、循環血液量が増えると心拍出量が増加し、高血圧のリスクが高まることがわかっています。
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関節への負担増加
肥満により股関節や膝の関節へ過剰な負担がかかると、腰痛や変形性関節炎などの要因となります。
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メタボリックシンドローム
BMIで判定される肥満度に関わらず、お腹周りのサイズが大きくなると、内臓脂肪増加の影響でメタボリックシンドロームのリスクが高まります。その結果、糖尿病などの病気につながりやすくなることがわかっています。
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ADL(日常生活動作)の低下
高齢者の肥満は、歩く速さや椅子から立ち上がる動作、階段の上り下りなどの運動機能を衰えさせる要因となることが示唆されています。
2.高齢者の肥満予防【食事編】
ここでは、食事の面で肥満を予防するポイントを解説します。
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一日3食、規則正しく食事を摂る
朝・昼・夜の食事時間を決めておくと、血糖値の急激な上昇を防ぎ、脂肪を溜めにくくすることにつながります。
また、一日3食をしっかり摂り空腹時間を短くすることで、間食や過食防止にもなるのです。
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野菜、海藻、きのこを意識して摂る
食物繊維が豊富でカロリーが低い野菜や海藻類、きのこ類を一日350g以上摂りましょう。これらは満腹感を得やすくするため、肥満予防におすすめです。
ただし、野菜であっても、いも類やとうもろこし、かぼちゃは糖質を多く含みます。食べすぎると、血糖値を高めたり中性脂肪を増やしたりする要因となるため、摂りすぎないように気を付けましょう。
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糖分の多い飲み物は控える
糖分が含まれる清涼飲料水などを飲むと、腸内で糖が素早く吸収され、血糖値の急激な上昇と脂肪の蓄積を招きます。水分は水やお茶など、無糖の飲み物から摂りましょう。
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腹八分目を心がける
満腹まで食べると糖分や脂質の量も多くなり、摂取カロリーが高くなるため肥満を招きます。食事は常に腹八分目にすることを意識しましょう。
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間食を控える
肥満を予防するためには、間食をなるべく控えましょう。特に、お菓子類はカロリーや糖分・脂質が高くなりがちです。
ただし、我慢するとストレスや過食につながるため、一日の間食量は200kcal以内を目安にするとよいでしょう。
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油を使った料理を摂りすぎない
油を多く摂ると摂取エネルギーが過剰になりやすく、肥満を招きます。炒め物や揚げ物は控えめにし、油の少ない煮る・蒸すなどの調理法にしましょう。
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夕食は早めに済ませる
食事を摂る時間が遅くなるほど、体脂肪が蓄積されやすくなります。できるだけ、就寝2~3時間前までには食事を済ませましょう。
どうしても遅い時間に夕食を摂らなければならない場合には、17~18時頃に軽めの食事を済ませ、脂肪分が少ない食事を夜に少量摂るのがおすすめです。
3.高齢者の肥満予防【運動編】
ここからは、肥満予防のための運動について解説します。
肥満を解消するためには、有酸素運動やレジスタンス運動がおすすめです。
有酸素運動には、ジョギングやサイクリング、水泳などが含まれます。これらの運動を「ややきつい」と感じる程度で行なうとよいでしょう。
有酸素運動を行なうと、糖質などが燃焼し、持久力の向上やインスリン感受性の改善が期待できるとされています。インスリン感受性とは、インスリンが正常に働いているにも関わらず、作用が十分ではない状態のことです。
そして、レジスタンス運動はおもに筋力トレーニングを指します。レジスタンス運動を行なうと、筋肉量の増加や基礎代謝の維持・向上が期待できます。
運動する際には軽い負荷から始め、決して無理しないことが大切です。
高齢者の肥満には食事の見直しや運動で対策しましょう
高齢者の肥満は、糖尿病などを招くメタボリックシンドロームの要因となったり、歩行や階段の上り下りといった運動機能を低下させる要因となったりすることがわかっています。そのため、早めに肥満予防・対策をしていくことが大切でしょう。
肥満を予防するために、今回お伝えした食事や運動のポイントをぜひ参考にしてみてください。
監修者情報
氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。