高齢者のeGFRの基準値はどれくらい?注意点とともに解説

健康診断結果の「eGFR」の項目が気になっている方は多いのではないでしょうか。
eGFRとは、あなたの腎臓の働きがどれだけあるかを表す値です。

数値が悪化し病気が進行すると透析治療や腎臓移植が必要になる場合があり、日常生活に大きな支障をきたしてしまうかもしれません。

今回は、高齢者のeGFRの基準値と注意点について紹介します。いつまでもイキイキと過ごすために、参考にしてみてください。

1.eGFRの基準値は高齢者でも若年者でも同じ

GFR(糸球体濾過量)の基準値に年齢による区分は設定されておらず、高齢者も若年者も同じ基準値で腎機能の評価を行なっています。

eGFR(推算糸球体ろ過量)の正常値は、「60ml/分/1.73㎡以上」です。

「GFRが60ml/分未満の状態」または「尿タンパク」が3カ月以上続く場合は、CKD(慢性腎臓病)と診断されます。具体的なeGFRの数値と腎機能の状態は、以下の表のとおりです。

GFR区分(ml/分/1.73㎡) 腎機能
90以上 正常または高値
60~89 正常または軽度低下
45~59 軽度~中等度低下
30~44 中等度~高度低下
15~29 高度低下
15未満 末期腎不全

参照:厚生労働省「糖尿病性腎症重症化予防の現状とおさえておきたいポイント

1-1.ちなみに「eGFR」とは?

「eGFR(推算糸球体ろ過量)」は腎臓の機能を示す指標であり、「GFR(糸球体ろ過量)」を推算したものです。

「GFR」とは、腎臓のなかにある毛細血管の集合体(糸球体)が、1分間にどれだけの血液をろ過して尿を作ることができるかを表しています。

一般的な診療ではGFRを実測するのではなく、筋肉から出ている毒素「クレアチニン」と「性別」「年齢」を加味して算出したeGFRの値によって、腎機能を評価するのです。

GFRの値が低いほど、腎臓の機能が低下していることを示します。

2.高齢者のeGFRで注意すべきこと

実は、「eGFR(推算糸球体ろ過量)」は万人に使える指標ではありません。 そのため、必ずしも腎機能を正しく反映していない場合があることを理解しておきましょう。

2-1.筋肉量が著しく少ない人や多い人の診断には向かない

前述したとおり、eGFR(推算糸球体ろ過量)は血清クレアチニンの値を用いて算出されます。クレアチニンは筋肉から出る毒素であるため、筋肉量によって血清クレアチニンの値が影響を受ける点に注意が必要です。

筋肉量や運動、食事の影響を受けにくい血清シスタチンC値から算出するのがおすすめです。気になる方は、かかりつけ医の先生に相談してみるとよいでしょう。

2-2.糖尿病の人の診断には向かない

eGFR(推算糸球体ろ過量)は、糖尿病(初期)の人の腎機能の評価には有用ではありません。なぜなら、高い血糖値を下げるために尿量が増えた結果、腎臓のろ過機能が一時的に向上しているように見える「過剰ろ過」の影響が考えられるためです。

3.eGFRが低いとどうなるのか?

eGFR(推算糸球体ろ過量)が低い値の場合、特に高齢者は慢性腎臓病(CKD)になる可能性が高いのです。

実は、日本人(成人)の8人に1人が慢性腎臓病だといわれています。慢性腎臓病を放置すると透析治療や腎臓移植が必要になり、QOL(生活の質)を大きく損なうリスクがあるのです。

やっかいなことに、腎臓は機能が低下しても自覚症状として現れにくいのです。そのため、異常に気付くのが遅れ、慢性腎臓病が進行してから病気が発覚するケースも多々あります。

腎臓は一度機能が衰えてしまうと、残念ながらもとに戻ることはありません。だからこそ、定期的に医療機関の検査を受けて腎機能の状態を把握し、GFRが60ml/分未満の状態が続くようであれば、早期に適切な治療を受けることが大切です。

高齢者の方は年に一度は健康診断を受けてeGFR値を確認しましょう

病気が進行すると透析治療や腎臓移植が必要になり、QOL(生活の質)を大きく低下させてしまう場合もあります。

eGFR(推算糸球体ろ過量)の基準値は、年齢を問わず同じ指標が使われています。しかし、万人に使える指標というわけではなく、「筋肉量が著しく少ない人や多い人」などといったケースでは、正しく腎機能を反映しない可能性もあるため注意が必要です。

また、腎臓の機能は一度低下してしまうと回復しませんが、早期発見・早期治療により腎機能低下の進行を食い止めることができます。少なくとも年に一回は健康診断や医療機関の検査を受けて、自分のeGFRの項目に注目するようにしましょう。

監修者情報

氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。