1.塩分の働きについて
ヒトが普段から摂取している塩(塩分)は、塩化ナトリウムを主成分とする物質です。
塩は体内で「ナトリウムイオン」と「塩素イオン」に分かれて吸収されますが、どちらも健康を維持するうえで重要な役割を担っています。
ナトリウムは塩の副成分であるカリウムと協力して、細胞外液の浸透圧を維持し血圧を調節しています。なぜ、無数に存在する細胞が正常性を保てているかというと、このナトリウムの働きがあるためです。
さらに、ナトリウムは筋肉の収縮や神経の情報伝達、小腸での栄養吸収などにも関わり、全身の幅広い機能をサポートしています。
一方、塩素は胃酸をつくる成分で、おもな役割は食べ物の消化・殺菌です。
2.塩分不足が引き起こすおもな症状
塩分不足を防ぐためには、関連症状と摂取目安量を知っておくことも大切です。
2-1.おもな症状
一般的な食生活を送っている場合、塩分(ナトリウム)が足りなくなることはほとんどありません。しかし、夏場などの暑い環境下やスポーツによって大量に発汗したり、激しい下痢を起こしたりした場合、塩分不足に陥ってしまうことがあります。
塩分不足が原因で現れる症状には、下記のようなものが挙げられます。
-
・疲労感
-
・食欲不振
-
・血液濃縮
-
・頭痛
-
・吐き気
-
・筋肉のけいれん
特に頭痛・吐き気・筋肉のけいれんなどが起こっている場合、塩分不足による熱中症も疑われるため、注意しなければなりません。上記のように大量に汗をかく場合、水分だけではなく塩分を補給することも忘れないようにしましょう。
2-2.一日の摂取目安量はどれくらい?
一日あたりの塩分の摂取目安量や目標量は、年齢・性別によって下表のように変動します。
ナトリウムの食事摂取基準(mg/日、( )は食塩相当量[g/日])
性別 |
男性 |
女性 |
年齢等 |
推定平均 必要量 |
目安量 |
目標量 |
推定平均 必要量 |
目安量 |
目標量 |
0 ~ 5 (月) |
─ |
100(0.3) |
─ |
─ |
100(0.3) |
─ |
6 ~11(月) |
─ |
600(1.5) |
─ |
─ |
600(1.5) |
─ |
1 ~ 2 (歳) |
─ |
─ |
(3.0 未満) |
─ |
─ |
(3.0 未満) |
3 ~ 5 (歳) |
─ |
─ |
(3.5 未満) |
─ |
─ |
(3.5 未満) |
6 ~ 7 (歳) |
─ |
─ |
(4.5 未満) |
─ |
─ |
(4.5 未満) |
8 ~ 9 (歳) |
─ |
─ |
(5.0 未満) |
─ |
─ |
(5.0 未満) |
10~11(歳) |
─ |
─ |
(6.0 未満) |
─ |
─ |
(6.0 未満) |
12~14(歳) |
─ |
─ |
(7.0 未満) |
─ |
─ |
(6.5 未満) |
15~17(歳) |
─ |
─ |
(7.5 未満) |
─ |
─ |
(6.5 未満) |
18~29(歳) |
600(1.5) |
─ |
(7.5 未満) |
600(1.5) |
─ |
(6.5 未満) |
30~49(歳) |
600(1.5) |
─ |
(7.5 未満) |
600(1.5) |
─ |
(6.5 未満) |
50~64(歳) |
600(1.5) |
─ |
(7.5 未満) |
600(1.5) |
─ |
(6.5 未満) |
65~74(歳) |
600(1.5) |
─ |
(7.5 未満) |
600(1.5) |
─ |
(6.5 未満) |
75 以上(歳) |
600(1.5) |
─ |
(7.5 未満) |
600(1.5) |
─ |
(6.5 未満) |
妊 婦 |
|
600(1.5) |
─ |
(6.5 未満) |
授乳婦 |
600(1.5) |
─ |
(6.5 未満) |
※1歳未満は目安量
※目安量:推定平均必要量・推奨量を算定するのに十分な科学的根拠が得られない場合に、ある性・年齢階級に属する人々が、良好な栄養状態を維持するのに十分な量
引用:厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
また、高血圧や慢性腎臓病を発症している人は、重症化を防ぐためにも男女問わず一日6g未満に抑えるとよいでしょう。
3.塩分は摂りすぎにも注意が必要
摂取目安量が設定されていることからわかるように、塩分の摂りすぎにも注意が必要です。塩分を過剰摂取すると、口の渇きやむくみなどの症状が現れます。
また、高血圧のリスクが高まることも報告されています。高血圧に起因する病気を予防するためにも、塩分の摂りすぎは避けなければなりません。
減塩に取り組むなら、ラーメンなど麺類のスープをすべて飲まないようにして、コショウやカレー粉など塩以外の調味料を使うといった工夫をするとよいでしょう。そして、味噌やしょうゆは、減塩表示のある製品を選ぶことも重要です。
ナトリウムはカリウムの働きによって体外へと排出されるので、カリウムを多く含むいも類やわかめ、果物などを積極的に摂取することも意識しましょう。ただし、腎機能に障害がある方はカリウムの取りすぎには注意が必要なため、必ず主治医にも確認しましょう。
塩分不足にならないよう適度な摂取を心がけましょう
塩分不足に陥ると、疲労感や食欲不振といった症状が起こります。一方で、塩分の摂りすぎはむくみや高血圧を引き起こすため、塩分は適度に摂取することが大切です。
日本人の食事では、塩分不足よりも摂りすぎのほうが問題となりやすいので、日頃から減塩対策に取り組みましょう。
ただし、最近は地球温暖化による気候変化から、熱中症になる人も多く見受けられます。汗を多くかいたときは、水分だけではなく塩分も補給して、熱中症を予防しましょう。
監修者情報
氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。