1.痔の原因とは
痔は排便異常や血行不良が関係して生じうる病気です。ここでは痔を発症する原因とそのメカニズムを解説します。
1-1.痔とは
痔は、医学的に「痔疾(じしつ)」と呼ばれる病気です。肛門の周りに過度の負担がかかることで、肛門と直腸下部周辺にある静脈そう(静脈が集まっている部分)の血流が滞って発症します。日本人の3人に1人が痔に悩まされているとされ、日本の国民病ともいえます。
1-2.痔の原因
痔を引き起こす原因は、おもに次のとおりです。
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・便秘
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・下痢
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・長時間同じ姿勢を取り続けること
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・妊娠や出産 など
便秘のほか、立ちっぱなしや座りっぱなしといった長時間の同じ姿勢は、肛門周辺のうっ血を引き起こします。一方で、繰り返す下痢は肛門の皮膚にダメージを与え、雑菌が繁殖する原因です。
また、女性の場合は妊娠、出産をきっかけに痔を発症する人も少なくありません。これは女性ホルモンの影響による便秘や、出産時の強いいきみが関係しています。
2.痔の種類
痔には大きく分けて痔核・裂肛・痔瘻という3つの種類があり、発症する部位や症状が異なります。それぞれの痔の原因について見ていきましょう。
2-1.痔核(いぼ痔)
痔核はいぼ状にふくらんだ痔であり、発生する場所によって内痔核と外痔核の2種類があります。内痔核は歯状線と呼ばれる直腸と肛門の境界線よりも内側に、外痔核は歯状線よりも外側にできるいぼ状の痔です。一般的に「いぼ痔」というと、直腸粘膜内に発症する内痔核を指します。
便秘や同じ姿勢を長時間続けると、内痔核のリスクにつながります。便秘が続くと便が硬く出しにくくなるため、排便時に強くいきみすぎてしまい、その結果、肛門の周りに負担がかかってうっ血が生じます。また、加齢にともなって粘膜下を支える組織が断裂したり支える力が弱くなったりすると、クッション部分の組織が肛門の外に出て痔核となります。
便秘やスポーツ時の強いいきみは、肛門の外痔静脈そうのうっ血や内出血を引き起こし、外痔核の原因につながります。さらにその中で血栓ができて患部がふくらんだものが、外痔核です。
2-2.裂肛(きれ痔)
裂肛とは排便の際に肛門の近くが裂けて発症する、いわゆる「切れ痔」です。女性は女性ホルモンの影響などから痔の最大原因である便秘がちな人が多く、裂肛に悩むケースが多く見られます。
裂肛は硬い便を出すときに肛門上皮が裂けることで起きますが、長引く下痢によって肛門周りの皮膚に炎症が生じると皮膚が弱くなり、わずかな刺激でも裂けやすくなります。
2-3.痔瘻(あな痔)
痔瘻とはいわゆる「あな痔」を指し、直腸と肛門付近の皮膚を貫通する穴があいてしまう痔です。痔瘻は、歯状線近くでの細菌感染がきっかけで発症します。細菌感染で患部が化膿すると、管を形成して膿を体外に排出しようとするのが原因です。体が健康なときには痔瘻は発症しませんが、免疫力が低下した場合に生じるおそれがあります。
3.痔の予防・対策方法
痔の予防には、肛門のうっ血や肛門への刺激を極力小さくすることが大切です。痔の対策のために、次のことを心がけましょう。
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・排便時に強くいきまない
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・腰やおしりを温める
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・肛門周辺は清潔に保つ
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・暴飲暴食をしない
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・食物繊維や水分をしっかり摂る
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・香辛料を控える
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・ストレスを溜め込まない
強くいきむと肛門への圧力から、周辺のうっ血につながります。うっ血の予防には、肛門周りの血行を良くしましょう。お風呂に入ったり、携帯カイロなどで温めたりするのも有効です。排便後はティッシュで清潔にふき取って、肛門への刺激を避けます。
また、トウガラシやコショウなどの香辛料の過剰摂取は、下痢の原因や肛門への刺激となるため、控えめにしましょう。規則正しい食生活やこまめなストレス発散で、胃腸の調子を整えて便秘や下痢の予防につなげましょう。
痔のセルフケアは原因を取り除くことから
痔は日本人の多くが悩まされている症状です。便秘や下痢といった腸トラブルや、デスクワークや立ち仕事などのうっ血しやすい姿勢が痔の発症につながっています。
また、痔は男性の病気というイメージがありますが、実際は女性患者も多く存在します。恥ずかしさから人に相談できない「隠れ痔主」も少なくありません。
便秘や下痢を予防する食生活の改善や、入浴などで肛門周りの血行を促進することは自分でできる痔の対策です。
痔の予防のためにも、生活習慣を整えて痔の原因を取り除きましょう。そして、症状が続く場合は早めに医師の診察を受けましょう。
監修者情報
氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。