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気になる「老化症状」

最近眠れない、寝ても目が覚めてしまう…悩みが多い高齢者の睡眠の特徴

監修:
医療法人社団絹和会 睡眠総合ケアクリニック代々木理事
大川匡子

人生100年時代。生涯における睡眠時間は、25~30年にのぼります。これだけの時間を費やすのですから、睡眠中は心地よい時間にしたいものです。しかし、年齢が上がるにつれ、眠りが浅くなる、たくさん眠れないなど、睡眠は変化します。睡眠に不満や不安を感じることはありませんか? 高齢者の睡眠の特徴について、睡眠のメカニズムとともに解説しましょう。

高齢者は、「早寝早起き」「眠りが浅い」「短時間睡眠」

睡眠には、脳や体の修復、心身の安定、学習したことの定着など、重要な役割があります。逆に、眠らなければ、脳機能の低下で、注意力が散漫になって作業効率が落ちたり、体も疲れやすくなります。近年は、睡眠不足がアルツハイマー型認知症リスクを高めることもわかってきました。

ところが、年齢とともに、「早寝早起き」「眠りが浅い」「たくさん眠れない」といった傾向が出てきます。

レム睡眠とノンレム睡眠

高齢者と若者の睡眠の違いをみていきましょう。

睡眠には、レム睡眠とノンレム睡眠があります。レム睡眠は、起きているときに近い脳波状態を示し、急速眼球運動(Rapid Eye Movement)がみられることから、頭文字をとって"REM睡眠"と呼ばれています。夢を見ているのは、このレム睡眠時です。一方、ノンレム睡眠は、脳の活動が低下した状態です。睡眠段階が1~4に分けられ、寝入ると、1の浅い眠りから始まり、2、3、4と次第に深いに眠りにはいっていきます。3、4は「徐波睡眠」といって熟睡した状態です。通常は、睡眠はノンレム睡眠から始まり、だいたい90~120分間隔でノンレム睡眠とレム睡眠を交互にくりかえしていきます。

70代は、深い眠りがほとんどなく、中途覚醒が多い

健康な成人の場合は、睡眠の前半は熟睡状態が多く現われ、後半になるとレム睡眠が多くなっていきます。しかし、高齢になると、睡眠は浅くなり、70代になると徐波睡眠はほとんどなく、中途覚醒が多くなっていきます。

したがって、高齢者の睡眠の特徴として、「たくさん眠れない」「熟睡感がない」「夜中に目が覚めやすい」といったことがあらわれます。

睡眠には「体内時計」「覚醒機構」「ホメオスターシス」の3つが関係

また、睡眠には「体内時計」「覚醒機構」「ホメオスターシス」という3つのメカニズムが関係していますが、このメカニズムの加齢による変化も、睡眠に影響しています。

そのメカニズムをひとつずつ、みていきましょう。

体内時計のリズムが変化してくる

夜になると眠くなり、朝になると目が覚めるという「睡眠と覚醒のリズム」に関係しているのが、体内時計です。私たちは、地球の自転に合わせて24時間周期で活動していますが、体内時計の周期は25時間。このずれを調節してくれるのが「光」で、朝起きて太陽の光を浴びることで、体内時計はリセットされます。

「睡眠と覚醒のリズム」をつくっているのは、「深部体温」と「メラトニン」という脳内ホルモンです。体温は、一日の中で変動しており、早朝から上がり始め、午後2~3時頃にピークに達すると、徐々に下がり始め、午前2~3時頃に最も低くなります。体温が下がるタイミングで、人は眠気を感じますが、体温の下降に関与しているのが、メラトニンです。昼間はまったく分泌されませんが、午後9時頃から分泌が盛んになり、夜中の2~3時頃に最も多くなります。

つまり、そろそろ寝ようかという午後10時~午前0時頃に、メラトニンの分泌がさかんになり、体温は下降して、眠気が起きるというわけです。

高齢になるにつれ、メラトニンの分泌量が減り、体温の高低差も小さくなります。眠りが浅くなったり、寝付きが悪くなるのは、この睡眠に関わる体内リズムの振幅が全体的に小さくなることが一因です。また、長く眠っていられないことで、「早起き」になり、体内時計が前倒しになることで、ますます「早起き」になっていくこともあります。

不安やストレスで、覚醒機構が働きやすくなる

次に、覚醒機構について説明します。

覚醒機構は、必要な時に目が覚める機能です。脳には、命の危険を感じるようなときには睡眠を妨げるカニズムがあるのです。不安やストレスで眠れなくなるのは、この覚醒機構によるものです。50代、60代では、まだまだ会社や仕事のストレスもあるでしょう。家族の心配事が増えることもあります。70代になれば、自分や家族、友人の健康に不安を感じることも多くなるかもしれません。年齢とともに、ストレスや不安を抱えやすくなることが、「眠りが浅くなる」ことに関係しているといえます。

ホメオスターシスにより、睡眠時間が決まる

ホメオスターシスは、体を一定に保つ働きです。人は日中の活動量や起きている時間に応じて、睡眠物質という脳内ホルモンがたまっていきます。貯まった睡眠物質は睡眠中に処理・排出されますが、ホメオスターシスによって、昼間は一定量以下に保たれています。

この睡眠物質がたくさんたまるほど、眠気が強くなります。日中に運動をした日などに、ぐっすり眠れるのは、そのせいです。これも、疲れた分だけ眠らせようというホメオスターシスの働きによるものです。

一方で、日中の活動量が少なければ、睡眠物質はさほどたまらず、強い眠気も起きず、長い睡眠も必要としません。
50代~70代ともなれば、仕事でも料理でも、これまでの経験から、段取りが体にしみついているため、さほど頭を使わなくても、効率よく進めることができます。多くの学習が必要な子どもや若者に比べて、日中の脳や体の活動量が少なくなります。

高齢者の眠りが浅く、熟眠感を得にくいのは、睡眠物質がさほどたまらなくなっていくことも関係しています。また、短い睡眠でも睡眠物質は十分に処理されるため、朝も早くに目が覚めてしまうというわけです。

ホメオスターシスから考えると、そもそも、長い睡眠を必要としないのが高齢者といえるかもしれません。

まとめ

高齢者は若者に比べて、「深い睡眠状態」がみられなくなるため、夜中に目が覚めやすく、睡眠時間も短くなる

眠気に関わる体温の高低差が小さくなり、睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンの分泌量が減ることで、眠りが浅くなる

日中の活動量が減ることで、眠気に関わる「睡眠物質」の蓄積が少なくなり、熟睡感が得にくくなる。また睡眠時間も短くてすむようになる

不安やストレスで、寝付きが悪くなったり、眠りが浅くなる

そもそも、高齢になると活動量の低下で、若い頃よりも睡眠時間を必要としなくなる

取材・文 FYTTE 編集部

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