気になる「老化症状」
気になる「老化症状」
監修:お茶の水血管外科クリニック院長
広川雅之
多くの人が悩まされる脚のむくみ。
その大部分は病気ではありませんが、なかには中高年に多い病的なむくみもあります。
それが、下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)によるむくみ。
つらいむくみの症状のほかに、脚の重だるさに悩まされたり、さらに症状が悪化すると皮膚炎になってかゆみも出る病気です。
実は全国に約1000万人も患者がいるとされる下肢静脈瘤のセルフチェック法と、自分でできる予防法&解消法をお教えします。
下肢静脈瘤とは、その名の通り、脚(下肢)の静脈にこぶ(瘤)のような膨らみが生じる病気です。
血管がボコッと浮き出たり、青や赤の細い血管が目立ったりします。
良性の病気なので、そのままにしていても命の危険につながることはありません。
しかし、脚のむくみや重だるさから外出を控えがちになったり、こぶが目立ってスカートが履けない、人の目が気になるから温泉やプールに入れないなど、日常生活に支障が出る場合があります。
こぶは思い当たらないという人でも、日常的にむくみやだるさを感じている人は要注意。
まずは下肢静脈瘤がないかどうか、セルフチェックで診断してみましょう。
以下のような自覚症状がある人は、下肢静脈瘤を発症している可能性があります。
以下に該当する人は、そうでない人に比べて、下肢静脈瘤になるリスクが高いと言えます。
以下のような症状がある人は、下肢静脈瘤です。
静脈瘤はしばらく立っていると症状がはっきり出るので、3分ほど立ち続けたあとで、太ももから足首までを鏡でチェックしてみてください。ひざの裏側、お尻と足の境目、太もも・ふくらはぎの内側、足首まわりなども見落とさないようにしましょう。
セルフチェックの結果はいかがでしたか? 普段、むくみや脚の重だるさに悩んでいる方の中には、今回のチェックで初めて下肢静脈瘤があることに気づいたという方もいらっしゃるかもしれません。
下肢静脈瘤は年齢とともに増加する病気で、ある調査では40歳以上の女性の11.3%に認められました。また、出産経験のある女性の2人に1人、約半数が発症するというデータもあります。日本全国にいる患者は1000万人以上と推定され、とても身近な病気なのです。
今は見た目には症状がないという方も、妊娠・出産を経験していれば発症するリスクが高く、立ち仕事に従事している方は重症化しやすい傾向があります。
むくみやだるさがある場合には、定期的なセルフチェックと予防法の実践をおすすめします。
では、多くの人が発症する下肢静脈瘤は、そもそも何が原因で起こるのでしょうか。
それには、私たちの全身を巡る血液の流れと、現代人の生活習慣が大きく関係しています。
人の体を巡る血管には、動脈と静脈の2種類があります。
動脈は、心臓から送り出された血液を体のすみずみまで届けています。厚い筋肉層があるために弾力があり、勢いよく流れる血液の圧力に耐えられます。
静脈は、各部位に送られた血液を心臓に戻す働きをしています。薄い筋肉でできたやわらかい血管で、ゆっくりと血液を流します。頭から心臓へと血液を送るのはスムーズなのですが、脚の静脈ではどうでしょう。人は立って生活しているので、重力に逆らって下から上へと血液を送る必要があります。
重力に逆らって血液を心臓まで戻すために、私たちの体には静脈還流という働きが備わっています。脚の血流では、「ふくらはぎの筋肉による筋ポンプ作用」と「静脈の逆流防止弁」が静脈還流の重要なカギを握ります。
ふくらはぎの筋ポンプ作用は、脚を動かすことで働きます。ふくらはぎの筋肉が収縮と弛緩を繰り返すことで静脈が圧迫され、血液が脚から心臓へと押し上げられるのです。ただし、それだけでは重力に逆らえず、血液は逆流してしまいます。そこで重要な働きをするのが、静脈についているㇵの字形の逆流防止弁。血液が通過するときには弁が開き、通過し終わると閉じて逆流を防ぐのです。
筋ポンプ作用と静脈の逆流防止弁がきちんと働いていれば、下肢静脈瘤になることはありません。逆に言えば、この2つがうまく機能しなくなると、下肢静脈瘤が起こるリスクが高まるのです。
運動不足になると筋ポンプの働きが弱まり、血液が足にたまりやすくなります。さらに、加齢で筋力が落ちると、筋ポンプ作用はますます弱まります。また、立ち仕事が多いと、脚に血液がとどまる時間が長くなるため、静脈弁に負担がかかり壊れてしまう場合があります。妊娠・出産によるホルモンバランスの変化でも静脈弁が壊れやすくなります。
下肢静脈瘤を予防するには、まず第一に筋ポンプ作用を積極的に働かせること。そして、静脈弁に負担をかけないような生活を心がけること。すでに下肢静脈瘤がある人も、同様の方法で症状の解消が期待できます。その具体的な方法をお教えしましょう。
脚の筋ポンプを働かせるには、ふくらはぎの筋肉を使うこと。エクササイズやストレッチももちろん効果的ですが、こまめに動く習慣をつけることが大切です。長時間の座りっぱなし、立ちっぱなしは避けて、1時間に1回は席を立ったり、屈伸をするようにしましょう。普段の生活で、意識して階段を使うようにするだけでも、十分に効果があります。
ふくらはぎのむくみが気になる夕方以降には、マッサージを行って静脈の流れをサポートしましょう。両手の平をふくらはぎに沿えるようにして、足首からひざ裏、さらに太ももまでさすりあげます。入浴しながらマッサージをするのもいいでしょう。
薬局で市販しているむくみ予防の靴下を常用しましょう。段階的に圧をかけることで静脈の流れをサポートしてくれるので、静脈弁への負担が軽減できます。すでに下肢静脈瘤の症状がみられる場合には、病院で医療用の弾性ストッキングを処方してもらうことをおすすめします。
加齢とともに気になり始めたむくみは、下肢静脈瘤の可能性も
下肢静脈瘤は、患者数1000万人以上の身近な病気
下肢静脈瘤の主な症状は、足のむくみや重だるさ
足の表面のこぶや、血管の浮き出しがないか定期的なチェックを
下肢静脈瘤の予防と解消の第一は、足の筋肉をよく動かすこと
取材・文 FYTTE 編集部
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