
『だだちゃ豆』は、山形県鶴岡市の白山地区など、旧鶴岡市管内で、江戸時代から作られてきた在来種の枝豆です。『だだちゃ豆』の「だだちゃ」というのは、地元の言葉で「おやじ」「お父さん」の意味です。昔、枝豆好きの殿様が、枝豆を持ち寄らせては、今日はどこの「だだちゃ」の枝豆か?と聞いていたことから、『だだちゃ豆』と呼ばれるようになったといわれています。
毎年8月初旬より早生種の出荷が始まりますが、元祖だだちゃ豆といわれる白山品種は、8月の中旬から下旬までの短い期間のみ。いよいよ収穫の最盛期を迎えます。
今回は、独特の香りと深みのある甘みがうれしい夏の味覚、鶴岡市の名産『だだちゃ豆』を取材しました。

一般的な枝豆は、表面の産毛が白く、三つ入りのサヤが多いのですが、だだちゃ豆は茶色の産毛で覆われ、くびれも深く、二つ入りのサヤが多いのが特徴です。見映えはよくありませんが、トウモロコシのような独特の香りと深い甘みはまた格別。食べ始めると止まらないほどのおいしさです。
その旨みを生み出してきたのは、米どころ庄内平野の中心に位置する鶴岡特有の風土と気候です。名峰・月山から流れる赤川の扇状地は砂壌土が多く、透水性が高いため枝豆の栽培にも好適です。さらに変化に富んだ気候と、夏の昼夜の大きな温度差がだだちゃ豆の成育には欠かせないといわれます。そのため、鶴岡以外の土地では栽培が難しく、また栽培に手間がかかるため生産量はわずか。生のおいしさは、この時期にしか味わうことができないため、遠方から買い求めに来る人もいるそうです。

枝豆は成熟前の若い大豆で、良質な植物性タンパク質に加え、ビタミンB1・B2、カルシウム、食物繊維を多く含んでいます。また、大豆には含まれていないβ-カロテンやビタミンCなどの抗酸化成分も豊富で、大豆と緑黄色野菜の栄養的特徴を併せ持っています。
さらに、枝豆のタンパク質に含まれるメチオニンには、ビタミンB1やCとともに、アルコールの分解を助けてくれるうれしい働きもあります。夏、ビールなどのおつまみに枝豆を食べるのは、非常に理にかなったことといえるでしょう。
庄内米の産地である鶴岡では、だだちゃ豆の炊き込みご飯がよく食卓にならびます。またアイスクリームやフリーズドライの加工品なども人気ですが、やはり旬のものは塩茹でがいちばん。そのままはもちろん、サラダにしてもおいしくいただけます。
最近は近縁種も出回るようになりましたが、本場の旬のおいしさと栄養たっぷりな『だだちゃ豆』で、暑い夏も彩り涼やかに楽しみませんか。

庄内藩14万石の城下町として発展した鶴岡は、東北で唯一現存する藩校や、明治・大正期の洋館など史跡や文化財が多く現存する街です。時代小説の第一人者・藤沢周平ゆかりの地としてもよく知られており、往時の足跡を残す美しい街並みや風景は、訪れる人を藤沢文学の世界へと誘います。
質実剛健な教育文化の土壌を育んだ庄内藩校「致道館」

写真・資料提供:JA鶴岡、鶴岡市