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食のちから 体を養い心を磨く 第7回:蕎麦

食のちから 体を養い心を磨く

監修

鈴木建夫先生

宮城大学食産業学部教授・農学博士。東北大学大学院農学研究科修了。同大学農学部へ奉職(文部教官助手)。農林水産省研究開発課長、食品総合研究所所長、同理事長などを経て、現職。『理想の健康食』(保健同人社)、『麺食のすすめ』(柴田書店)などの著書・編書がある。

厄を切り、家運をのばす伝統食

江戸の昔から庶民に親しまれてきた蕎麦。
粉の挽き方や配合によって、
香りや味もいろいろです。
中でも種皮ごと挽いた粉で打つ、
いわゆる田舎蕎麦は種皮や胚芽の栄養成分が
すべて含まれていることから、
ヘルシーな自然食品としても注目されています。
年の瀬の慌しさを乗り切る手軽な伝統食で、
来年も皆さまの健康と幸せが長く続きますように。

荒れた土地にも育ち、庶民や僧侶の貴重な栄養源に

 蕎麦は生命力が強く、山間部や寒い地域など、どんな土地でも収穫できることから、すでに奈良時代には救荒作物として栽培されていました。
 穀物の中で特に栄養価が高く、保存性も高い蕎麦粉は、精進を旨とする修行僧にとっても貴重な栄養源で、昔から山伏修行や千日行の時には、袋に包んで携帯し、水に溶いて食したといいます。
 そのころの蕎麦の食べ方は、まだ現代のような細長く切った麺(蕎麦切り)ではなく、一般の人々の間でも、蕎麦粉をお湯で練った「蕎麦がき」が普通で、蕎麦切りが広がったのは江戸時代の中期以降です。
 やがて蕎麦切りが盛んになると、寺では僧侶が打った「寺方蕎麦」が檀家のもてなしや、貧民救済などに広く振る舞われるようになりました。これが、各地の門前町に多く見られる「門前蕎麦」のきっかけだったようです。

現代人の食生活に大切な、健康成分の宝庫

 蕎麦が栄養的に優れている大きな理由は、その胚芽にあります。胚芽は、ビタミンB1・B2などを豊富に含む大切な部分ですが、米などの穀類は、胚芽が実の表面に付着しているため、精米などの過程で貴重な部分を失ってしまいます。
 一方、蕎麦の胚芽は実の中心に入っているので、粉に挽いた時にも、胚芽の成分がそっくりそのまま残されています。特に実を丸ごと挽いた田舎蕎麦は、風味も強く栄養価も最も高い蕎麦といえます。
 また、蕎麦には注目のルチンやカテキンなどの成分も含まれています。温かいものから冷たいもの、いろいろな食べ方を楽しみながら、健康に役立てましょう。

新年への願いを込めて家族でいただく年越しの蕎麦

 蕎麦の収穫は晩夏と晩秋の2回。特に香りや味が良い9~10月の秋蕎麦は、昔から「新蕎麦」と呼ばれて蕎麦通に好まれてきました。
 そして、大晦日にいただく年越しの蕎麦は、古より続く行事食。その由来については、家運や寿命などが長くのびる、旧年の厄災や借金をきれいに断ち切る、など諸説あるようです。
 食べ方や具なども地域によって様々ですが、ご家族の健康と長寿の願いを込めて、今年の大晦日にも美味しくいただきたいものです。どうぞ皆さま、良いお年をお迎えください。


美味しい食べ方

江戸の庶民に親しまれ、伝えられてきた蕎麦の味

もともと蕎麦切りは、つゆにつけて食べる「もり蕎麦」が原点。それが、元禄のころに一口ごとにつゆにつけるのは面倒と、直接つゆを「ぶっかけ」たのが「かけ蕎麦」の始まりです。また、いろいろな種ものが生まれたのも江戸時代。天ぷら、花巻(もみ海苔をちらしたかけ蕎麦)、卵とじ、おかめ、おろし、鴨南ばんなどが、その代表です。さて、今年の年越しは、どのお蕎麦で迎えられますか。


蕎麦をさらにヘルシーにする薬味の存在

冷たい蕎麦には、刻みねぎ、大根おろし、ワサビの薬味が定番ですが、栄養学的にも実に理にかなった組み合わせです。蕎麦には含まれていないビタミンAやCを、これらの薬味がカバー。またビタミンCには、健康成分ルチンの働きを助ける効果もあり、まさに調味の妙といえるでしょう。

最後に蕎麦湯も忘れずに

お店では、冷たい蕎麦を食べた後には蕎麦湯が出てきます。蕎麦の栄養成分には水溶性のものも多く、蕎麦湯にもその一部が溶け込んでいます。実際は数パーセント程度のようですが、蕎麦を余すところなく味わうというつもりで、ぜひ一緒にいただきたいものです。