古くから日本の食卓に欠かせない漬物。京都では伝統の京野菜に独自の技巧を凝らし、漬物の名産地としての歴史を育んできました。中でも昔ながらの乳酸発酵で作られるしば漬けは、独特の香りと酸味が魅力。近年はその健康作用にも注目が集まっています。

特有の気候風土と洗練された文化に育まれてきた京の漬物。四季折々の漬物がそろうのは、良質な野菜の産地であることに加え、海から遠い盆地にあり保存技術が発達したことや、寺社が多く精進料理や茶懐石が発展した歴史的背景があったからでしょう。
塩漬けと発酵によって生野菜とは違う旨みを引き出す漬物作りには、先人たちが培ってきた知恵と工夫が詰まっています。

数ある京の漬物の中で、この季節に味わいたいものの代表が「しば漬け」でしょう。初夏に収穫した赤じそとナスなどの野菜を塩のみで漬け込み、乳酸発酵させた、大原地方に古くから伝えられる郷土食です。
赤じその鮮やかな色あいと爽やかな酸味が特長で、その味わいを決めるのが乳酸菌。長年のあいだ蔵や樽(たる)にすみついた乳酸菌が、野菜に付着して発酵を進めながら、野趣あふれる特有の風味を醸し出します。

八月中旬ごろに新漬けが樽出しされますが、初秋からは熟成が進み本格的な味わいに。さらに季節とともに熟成を重ねると風味も深さを増すので、時季による味の違いを楽しむのも一興でしょう。
夏疲れで食欲が落ちるこの時季にうれしい赤じその香りと酸味。活力が蘇(よみがえ)る植物由来の乳酸菌のちからを食卓に取り入れてみませんか?