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食のちから 体を養い心を磨く 第14回:甘酒

食のちから 体を養い心を磨く

監修

小泉武夫(こいずみたけお)先生[東京農業大学名誉教授 農学博士]

専門は醸造学、発酵学、食文化論。専門分野の研究の傍ら、世界中の「食」を求めて世界中を駆け巡り“食の冒険家”と呼ばれる。雑誌の連載、多数のテレビやラジオ出演などでも活躍。著作も『「味覚人」飛行物体』(時事通信社)、『食あれば楽あり』(日本経済新聞社)、『発酵は力なり』(日本放送出版協会)など多数。

夏の暑さを凌(しの)ぐ先人の知恵

甘酒といえば
冬に飲むというイメージがありますが、
本来は夏の飲み物。
消化が良く栄養豊富なことから
江戸時代には暑気払いのために
子どもからお年寄りまで広く飲まれていました。
発酵という自然のめぐみと
先人の知恵が生んだその一杯には、
天然の甘みと豊かな滋養成分が
たっぷりと溶け込んでいます。

江戸の庶民が愛した“発酵飲料の元祖”

 甘酒は、日本の伝統的な発酵食品の一つです。お粥を炊いて米麹を混ぜ、60度ほどで保温しておくと米のでんぷんが糖化され、一晩で甘くなるため「一夜酒(ひとよざけ)」とも呼ばれます。米麹から作る甘酒は、酒といってもアルコール分は含まれず、柔らかくて栄養バランスに優れているので、離乳食として利用しているところもあるようです。
 甘酒の歴史は古く、江戸時代には酷暑を乗り切るための夏の飲み物でした。当時の庶民生活を描いた『守貞漫稿(もりさだまんこう)』という書物には、甘酒売りの絵とともに「江戸京坂では夏になると甘酒売りが市中に出てくる。一杯四文也」と記されています。
 現代のように冷房などの設備がない時代、暑さで体力を消耗した人々にとって、滋養豊富な一杯の甘酒は大変ありがたく、甘酒売りは夏の風物詩でもありました。その名残でしょうか、俳句で甘酒は夏の季語とされています。

麹菌が醸(かも)し出す優れた栄養成分の宝庫

 甘酒が栄養面で大変に優れているのは、麹菌の発酵作用によるものです。麹の酵素によって米のでんぷんはブドウ糖に、また米のタンパク質は多量の必須アミノ酸群に変わります。さらに麹菌は繁殖する時にビタミンB1・B2・B6、パントテン酸などのビタミン群を作り出し、それらが甘酒に溶け込むので、もとの米とは別物の”総合健康飲料”になるのです。
 その栄養バランスは、病院で行う点滴の輸液とほぼ同じ内容というから驚きです。江戸時代、町で売り歩かれた甘酒が、夏バテなどで体が衰弱している人々に喜ばれたというのは、現代栄養学の視点からも大いに納得できる話です。
 材料は米と米麹と水だけ。発酵という技術によって、自然の甘みと、点滴に相当する栄養成分を作り出した先人の知恵に改めて脱帽です。暑くて食欲のない時は、体に優しい甘酒で、疲れを癒やしてみてはいかがでしょうか。


天然の甘さを利用した「甘酒スイーツ」

甘酒のさわやかな甘みは、そのままではもちろん、少し冷やしたりお好みで塩やおろししょうがを加えると、一層引き締まった味が楽しめます。 また、ちょっとひと工夫すれば、甘酒の風味を生かした自家製スイーツに。簡単に作れますので、ぜひお試しください。

※材料はいずれも4人分の目安です

なめらかな食感に黒みつの甘みが好相性「甘酒の黒みつ寒天」

  • 1.鍋に水(1カップ)と粉寒天(4g)を入れ中火にかける。寒天が溶けたら甘酒(2カップ)と塩少々を加えてひと混ぜして、容器に流し入れて冷やし固める。
  • 2.1の甘酒寒天を取り出してサイコロ状に切り、器に盛りつけて黒みつをかける。

酸味とコクが加わりまろやかな美味しさ「甘酒と豆乳のオレンジ風味ドリンク」

  • 1.オレンジ(1個)はよく洗い、果汁を絞る。
  • 2.甘酒(2カップ)に豆乳(1カップ)とオレンジの果汁を加えて混ぜ、氷の入ったグラスに注ぐ。お好みでオレンジの皮をすりおろして加えると風味が豊かに。

ゴマの香ばしさがうれしい和風パンケーキ「甘酒と黒ゴマのパンケーキ」

  • 1.甘酒(2カップ)と卵(2個)をよく混ぜ合わせ、薄力粉(2カップ)と黒煎りゴマ(大さじ3)を加えてなめらかになるまで混ぜ合わせ、30分ほど置いて生地をなじませる。
  • 2.熱したフライパンにサラダ油を薄く引き、1の生地を直径15cmほどに流し入れて両面をこんがりと焼く。食べる時にはちみつをかける。