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食のちから 体を養い心を磨く 第17回:岩手の郷土料理 ひっつみ

食のちから 体を養い心を磨く

梅津末子(うめつすえこ)先生[郷土料理研究家]

岩手県盛岡市在住。岩手県農政部委嘱「食の匠」認定委員、いわて「地産地消推進会議」推進委員として、地域の食生活の普及・指導にあたる。料理教室を主宰のほか、県内各地の料理講習会などで講師を務める。地元のテレビ番組で13年間、家庭料理を指導中。

取材協力/岩手県東京事務所
岩手県農林水産部

寒い地域の伝統食には、冬を元気に乗り切る知恵がある

昔から岩手県で親しまれている「ひっつみ」。
水でこねた小麦粉をひっつまんで(ひきちぎって)、
季節の野菜とともに鍋にしたことがその語源。
かつて米の生産が少なかったこの地の人々が、
厳しい気候風土と闘いながら、
家族の健康を願い、
受け継いできた郷土料理です。

米が育ちにくい寒冷地域が生んだ食のちから

 真夏でも「ヤマセ」と呼ばれる冷たい風が吹く岩手の県北地方。かつては稲作に不向きな地といわれ、米は貴重な換金作物でした。その米に代わる作物として栽培されたのが、小麦やそば、ヒエ、アワなどの雑穀類。いずれも粉に挽き、水を加え、練ったり伸ばしたりした「しとねもの」に加工して食されてきました。
 中でも、周辺の地域で採れる南部小麦の粉は粘りが強く、練って寝かせておくと、よく伸びるのが特徴。「ひっつみ」にすると、お餅に負けないほどの歯ごたえがあり、南部藩の時代から伝統食として受け継がれてきました。

だし汁や具は、地域や家庭によっていろいろ

 ひっつみのだし汁や具は、地域や家庭によっても様々。にんじん、ごぼう、長ねぎ、まいたけ、しめじなど、季節の野菜ときのこをたっぷり加えて作ります。
 岩手県「食の匠」認定委員で郷土料理研究家の梅津末子さんによると、「現在は多くが鰹のだし汁ですが、元来は、焼き干しにした岩魚などでだしを取っていたようです。昔は各家で鶏を飼っており、ハレの日や来客の時に振る舞いました。囲炉裏を囲んでいただく鶏肉入りのひっつみは、寒い晩には何よりうれしい”ごっつお(ご馳走)”です」
 残ったひっつみも時間をおくと味がしみてまた美味しいもの。大きな鍋いっぱいに作り、翌日まで食べられるご馳走だといいます。

冬を元気に過ごすための栄養成分がたっぷり

 栄養的にも優れた、具だくさんのひっつみで、健康維持に必要な5大栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル)をバランス良く摂りたいものです。そしてさらに注目したいのは、ごぼうやきのこなど、現代の食生活では不足しがちな食物繊維の豊富な具が多い点です。
 素朴ながら、北国の自然のちからと伝統が溶け込んだひっつみを、この冬、味わってみませんか。

どこか懐かしく、奥深い味わい「ひっつみ」

水で練って寝かせた生地は、耳たぶぐらいの柔らかさに。右手に水をつけながら薄く伸ばして、食べやすい大きさにちぎって鍋に入れます。

材料(4人分)

生地

小麦粉

・・・250g

・・・150cc

だし汁

・・・7カップ

鶏もも肉

・・・200g

にんじん

・・・約5cm

大根

・・・約10cm

ごぼう

・・・1/2本

きのこ類(しめじ、まいたけ、しいたけなど)

・・・適宜

長ねぎ

・・・適宜

せり

・・・適宜

・・・大さじ1

・・・小さじ1/2

しょうゆ

・・・大さじ3~4

※南部小麦粉や南部地鶏を使えばより本格的な味になります。

※小麦粉によって水加減を調整してください。

作り方

  • 1.ボウルに小麦粉をふるって入れ、くぼみを作り水を入れる。箸で混ぜ合わせてから手でこねて、1~2時間寝かせる。
  • 2.にんじんと大根は短冊に切り、ごぼうはささがきにして水にはなす。
  • 3.鍋にだし汁を入れ、鶏肉を食べやすい大きさに切って加える。ひと煮立ちしたらアクを取り、2を入れる。
  • 4.きのこ類を加え、1をちぎりながら入れる。
  • 5.仕上げに長ねぎとせりを入れ、調味料で味を調える。

地域によって具や作り方もいろいろ

「ひっつみ」は上記のほか、県内の各地域にはその土地の食材を使った様々な作り方が伝えられています。その一部をご紹介します。

すり身のひっつみ〈三陸沿岸〉:さんまのすり身におろししょうがや味噌を加えて団子にし、一味違ったひっつみに仕上げます。

かにのひっつみ〈県南部〉:川がにをすりつぶして加えた贅沢な味わい。足、甲羅、かにみそが一体となった独特のだし汁が決め手です。

川魚と山菜のひっつみ〈内陸部〉:焼いた川魚の香ばしさが食欲をそそり、ワラビやミズなどの山菜が、その味わいを引き立てます。