雪解けとともに大地から顔を出す
「蕗の薹(ふきのとう)」。
春一番を告げる薄緑色のうれしい使者です。
その生命力と香りを閉じ込めた「蕗味噌」は、
旬を大切にする精進料理には欠かせない一品。
食卓を彩る“野山の精”が、
春の体を元気に目覚めさせてくれます。

頬にあたる風がやわらかく感じられると、いよいよ春の到来。山野では木々が芽吹き、生命の営みが始まりますが、土の中から真っ先に顔を出すのが「蕗の薹」です。四季折々の野菜や山菜を食材とする精進料理においては、待ちに待った自然からの贈り物。初々しい若緑の蕾(つぼみ)に出会うことは、春一番の喜びです。
特に摘みたての蕗の薹が放つ独特の香りには、寒さに耐えて土を突き抜けるたくましいエネルギーが感じられ、大地の生命力を体にいただく喜びとありがたさを実感します。

蕗の薹の魅力といえば、野趣あふれる香りとほろ苦さ。昔から「苦みのある旬の山菜を食べれば、冬の間に溜まった、体に不要なものが出る」ともいわれますが、先人たちはこうした自然がくれる恵みによって健康を養い、季節の体調管理に役立ててきたのでしょう。
さっと洗い、細かく刻んだものをそのままご飯に散らしたり、味噌汁に放っただけでも、早春の息吹がいっぱいに広がります。また、 山菜独特のえぐみは、油や味噌とよく合います。天ぷらはその代表ですが、手軽に作れて蕗の薹の滋味が存分に味わえるのが「蕗味噌」です。

味噌によって蕗の苦みがまろやかになり、ご飯によし、酒肴(しゅこう)によし。焼き味噌にしたり、おにぎりに塗って焼くと、芳醇な香りに食が進みます。
しばらく保存が利くので、春を演出する薬味としても重宝。精進料理では、おでん豆腐や生湯葉の上にのせて供します。
また蕗味噌の意外な魅力は、バターやチーズ、オリーブオイルなどにも良く合うことです。チーズと一緒にクラッカーにのせてカナッペにしたり、パスタやステーキのソースなどに使うと、野生の風味がいいアクセントになり、新しい美味しさが発見できるでしょう。この春、ぜひお試しください。