京の洛北、鄙(ひな)びた山里の風情が
今も残る大原の地で、
古くから野菜の保存方法として伝えられてきた
しば漬けは、野菜を赤紫蘇とともに
塩漬けにした発酵食品です。
その美しい色合いと、上品な紫蘇の香りで、
京の雅を感じさせてくれるしば漬けについて、
料理研究家の大原千鶴先生に伺いました。

『平家物語』でも知られる京・洛北の大原の里は、古くから赤紫蘇の産地として知られ、村の人々はこの紫蘇の葉と、夏の名残のなす、きゅうり、みょうが、唐辛子などを保存食として塩漬けにしていました。
大原の郷土食だったその漬物は、この地にある尼寺・寂光院に閉居されていた高倉天皇の中宮、建礼門院(平清盛の娘)に村人によって献上されました。すると大変気に入り、紫の葉で漬けたこの漬物にちなんで、“しば(紫葉)漬け”と名付けたといういわれが伝えられています。
「大原の赤紫蘇は、京都でも美味しいと評判で、しば漬けや梅干しを作る際には、私も大原へ買いに行きます。寒暖の差が激しい盆地の気候が、香り高い赤紫蘇の生産にぴったりなのでしょうね」(大原先生)

大原の里に伝わるしば漬けは、野菜を赤紫蘇と塩だけで漬け、野菜の表面に付着している乳酸菌の働きで発酵させたものです。
「発酵させたお漬物というと手間がかかりそうに思われるかもしれませんが、しば漬けは、ご家庭でも簡単に作ることができます。
赤紫蘇となす、きゅうり、みょうがなど、お好みの野菜を洗い、よく水気を切ったら、野菜全体の重さの約4%の天然塩を混ぜて、野菜とほぼ同量の重石をしておきます。1日ほどで野菜の水分があがってきますが、そのままそっとしておきましょう。すると野菜の表面に付着している乳酸菌の働きで発酵が促され、野菜に独特の酸味と旨みが加わります。10日間もすれば紫蘇の色素が、野菜を鮮やかな赤紫色に染め上げてくれます」

発酵による独特の酸味が、紫蘇の香りと相まって、風雅な京の味覚として親しまれているしば漬け。発酵食品が健康に役立つことは、昔からよく知られています。そのちからを改めて見直してみませんか。