骨董好きな少年

サントリー美術館は近年、陶芸家・辻清明(つじ せいめい)氏の旧蔵品から、各国のガラスを譲り受けました。

辻清明氏は、1927年、東京・世田谷の生まれ。父は大の骨董好きで、家には古美術商が出入りし、外出も骨董屋巡り。父は骨董の名品を惜しげもなく息子に手渡し、重さや感触をじかに楽しませてくれました。
時代も国も世評も問わず「いいものはいい」という父の審美眼を、清明少年は自然と受け継ぎます。そして9歳の頃、江戸時代の大陶芸家、野々村仁清(ののむらにんせい)の香炉(こうろ)が欲しいと父にせがみ、誕生祝いに買ってもらったのだとか。

それからは、どこへ行くにも仁清をポケットに入れて持ち歩き、やがて香炉を作るきっかけともなった(辻清明氏の言葉*1)
コアガラス アラバストロン

10歳にして陶芸の轆轤(ろくろ)を買ってもらい、中学は夜間部に通いながら陶芸家の指導を仰ぎました。美術評論家やコレクターなどを訪ねて教えをこい、やがて16歳にしてプロとなったのです。のちに東京・多摩市に登窯(のぼりがま)を築き、2008年に81歳で亡くなるまで、陶芸家、そして希代のコレクターとして天衣無縫の生涯を送りました。

美術品収集のなかでもガラスへの思いはひとしおで、ガラス作品作りに夢中になったこともありました。

焼物もガラスも炎が生み出す芸術であり、素早く回転させて成形するのも轆轤と似ており、灼熱をくぐったあとに見せる表情の豊かさにも共通するものがある(辻清明氏の言葉*2)

こちらは、紀元前4-前3世紀に地中海沿岸で、世界最古のガラス技法のひとつ「コアガラス」で作られた香油瓶です。悠久のロマンを感じますね。

コアガラスの技法についてはこちらへ

ガラスの美しさに魅せられて

発掘品のこの白瑠璃碗を目の前にすると今も胸が高鳴るのを抑え得ない(辻清明氏の言葉*3)
カットガラス碗

奈良の正倉院には、古代の輝きのままに数々の宝物が守り伝えられています。そのひとつが、シルクロードの交易で栄えたササン朝ペルシア伝来とされる「白瑠璃碗(はくるりのわん)」。それと同じデザインのご覧のガラス碗を、辻氏は愛蔵しました。

表面に文様を刻んで磨き上げる「カットガラス」の技術が見事! ペルシアの王様は、他国にこうした碗を贈っていたとか。かつては光が反射してきらめき、人々を魅了したことでしょう。

朝の光の中で見ると、その端正な姿に思わず居住まいを正したくなる。(中略)新春の来客にはこの三段重でもてなそうと思う(辻清明氏の言葉*4)
切子 籠目霰文三段重

「カットガラス」は日本では「切子(きりこ)」といいます。辻氏が集めたのはもっぱら、ご覧のような無色透明な切子でした。シンプルで粋ですね! ものの真価は使ってみないとわからないと語った辻氏は、ときにガラス器を茶道具に見立てて茶会を開きました。

いつの日か、私のコレクションを公開し、かつて父が言ったように子どもたちに「持ってごらん」と言いたいのである(辻清明氏の言葉*5)

多くの方の目に触れることは、辻氏の想いなのです。

2017年3月29日(水)からは、展覧会「絵巻マニア列伝」展が始まります。
次回は、学芸員イチオシの絵巻を奇想天外なストーリーとともにご紹介します!

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