今回は、「麗(うるわ)しい」が
その語源ともいわれる、「漆」に迫ります。

鎌倉時代につくられました。

こちらは国宝、『浮線綾螺鈿蒔絵手箱(ふせんりょうらでんまきえてばこ)』。
手箱とは、身の周りのものを収納する箱のこと。
この『浮線綾螺鈿蒔絵手箱』は、神さまに捧げられたものだと
言われており、鎌倉時代の漆工品の中でも指折りの名品です。
さっそく、漆を使った美術品や漆工芸の世界を、
さまざまな視点から紐解いていきましょう。

漆ってなに?

ちょっぴりしか採れません。

そもそも、漆とはどんなものかご存知ですか?
漆は、ウルシノキの幹に傷をつけると出てくる
“樹液”のこと。ウルシ科の植物はたくさんありますが、
このウルシノキは、東アジアにしか分布していません。

ここで、「漆」の字にご注目!この漢字には、漆のひみつが隠されています。
「へん」は、水を表す「さんずい」。「つくり」は「木に傷をつけて水が出る」という意味の組み合わせ。おや、木なのに「さんずい」とは・・・、
やはり樹液が重要ということですね。

漆掻きのひみつ

木なのに「さんずい」って不思議!
塗って研いで何十回も!

日本産の漆は、人の手で計画的に植えられ大切に育てられたウルシノキから採られています。
採取作業を「漆掻き(うるしかき)」、その仕事をする人を「掻き子(かきこ)」と呼ぶそうです。
なんだか可愛らしい!
木の幹に鎌で傷をつけると、わずかに樹液がにじみ出ます。それをヘラですくい取り、桶にいれて集めます。
10年以上かけて育てられるというウルシノキ、1本から採れる漆の量は200g以下。コップ1杯分にも満たないのです。

山の斜面を駆け巡る掻き子さんたちは、
1日に100本以上ものウルシノキから漆掻きをするというから驚き。また、掻く時期によって漆の性格に違いが出るといいます。それらを繊細に分類しながら採取するのは、日本ならでは。
そうした日本産の漆は、国内で流通している総量のわずか2%程度と、とても稀少なものです。
採取した漆は、丁寧にゴミを取り除いたあと、接着用や下地用の漆として使われます。
さらに、熱を加えて水分を蒸発させたものが、塗料としての漆になるのです。

引き込まれるような深い艶が美しい漆のお椀。そこには、下地・中塗り・上塗りと、漆を塗り、固まったら表面を研ぎだす、という作業が何十回も積み重ねられています。匠たちの知られざる苦労が隠されているのですね。

漆は最強!?

防水・防腐・抗菌効果も!?

さて、漆塗りの作業で大切なのは、
漆を塗ったらしっかり固めること。
漆はふつうの塗料のように、水分が蒸発して
「乾く」のではありません。
ほどよい温度と湿気のある環境で固まるという、
不思議な性質を持っています。

いったん固まると、漆はさまざまな力を発揮します。
水をはじき、酸やアルカリ、熱にも負けず、
防腐・防虫効果まで兼ね備えています。
まさに向かうところ敵なし!?
でも、弱点もあります。それは直射日光。
女性のお肌と同じで、紫外線はご遠慮したいのです。

皆さんご存知、京都の「金閣寺」。
あの金箔の下は漆なのをご存知ですか?
上に貼った金箔によって漆に直射日光が
当たらないように守られている、
という説もあるそうです。
ただ、紫外線によって分解されるというのは、
有機物にとっての宿命。土に還るのは自然の摂理ですから、
天然塗料である漆ならではの、エコな一面とも言えますね。

漆と○○のマリアージュ

漆はさまざまなものに塗ることができます。
木、竹、紙、布、金属、やきもの・・・。 
古来、日本ではさまざまな工芸品に使われてきました。遠く、縄文時代の出土品の中には、漆を塗った土器も見つかっています。

また、漆は優れた接着剤でもあります。
やきものの「金継ぎ」がそのよい例。
割れてしまった陶器を漆でつなぎあわせ、
元通りの形に蘇らせ、
その継ぎ目に金粉などを蒔いて仕上げます。

お茶人たちは、修理後の継ぎ目を「景色」と呼び、
割れる前とは異なる趣(おもむき)を
愛でてきました。
日本ならではの、侘びさびのセンスが育てた
芸術です。

そして、その接着力と仕上がりの美しさを最大限生かした技法が
「蒔絵(まきえ)」なのですが、この話はまた次回!
麗しの漆、その魅力をたっぷりとお伝えします。

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