美しさのひみつを大解剖

今回は、その華麗なる技と美を
たっぷりとご紹介します。

いつもは見えない蓋の裏はこんなに豪華!
30種もの草花!吉祥の意味があります!世界に誇る日本の伝統技!

鎌倉時代を代表する名品を
作りあげた技とは?

こちらはVol.01でもご紹介した国宝『浮線綾螺鈿蒔
絵手箱(ふせんりょうらでんまきえてばこ)』。
手箱は、もともと貴族たちが身の周りのものを入れる
ためのものでしたが、やがて、華やかな装飾を施し、
神様にささげるようにもなりました。鎌倉時代に作ら
れたこの箱は、まさに漆工技法の結晶です。

まずは蓋を開けてその裏を見てみましょう。箱の中に
秘められた美・・・。あらわれたのは、漆黒の面に咲
き競う、金色の繊細な草花です。

これは、「蒔絵(まきえ)」といって、漆の強い接着力
と仕上がりの美しさを最大限生かした技法のひとつ。
1200年ほど前から日本で独自に展開したもので、古
くから輸出されました。海外でも「Maki‐e」で通じ
るそうですよ。
「蒔絵」にはさまざまな種類がありますが、こちらは
基本技法のひとつ「研出蒔絵(とぎだしまきえ)」。
一体どうやって作るのでしょう? 順を追ってご紹介
しますね。「蒔絵」という名前のひみつもわかりますよ。

「研出(とぎだし)蒔絵」が
できるまで

「研出(とぎだし)蒔絵」とは金粉を「蒔く」ので「蒔絵」というんです。
白いキラキラの正体は何でしょう?

① 漆器の表面に漆で文様を描きます。その時に使う 筆は、なんとネズミの毛で作ったものが最高品質なん だそう!細くてもコシがあるので、粘りのある漆を扱 うのにもってこい。髪の毛よりも細い、繊細な線が引 けるんですね。

② 漆が固まらないうちに金粉を粉筒に入れて蒔きま す。そう、「蒔絵」という名前のひみつはここにあり! 金粉を「蒔く」ことに由来しているのですね。金粉を 蒔くときにつかう粉筒は、かつては、鶴の羽根の軸で 作った筒が最良とされたとか。今は葦などで作られ、 筒の先に絹の布が貼ってあります。筒をトントンとは じくと・・・ まあきれい。絹がふるいとなって金粉 が舞い落ち、漆で描いた文様が金色に生まれ変わるの です。

③ 文様の上から全体を漆で塗り込めます。

④ 全体が固まったら、特別な炭(すみ)を使って金 粉の上を研ぎます。表面全体が平らになるように研ぎ すすむと、漆の下からあらわれるのは・・・? さき ほど蒔いた金の文様です。一面に漆を塗り込んで均一 に研ぐので、凹凸がなく、文様が漆の地に自然に溶け 込みます。

⑤ いよいよ最後の工程。油と鹿の角を焼いて作った 粉を指につけて磨き、光沢を出します。余分な油をぬ ぐい、これにて完成!です。

手間暇かかっている!と驚くのはまだ早い。 実は、これまでの解説は全体の工程をかいつまんだも のなんです。作り手の根気と情熱が詰まっているんで すね。

ちなみに、漆を塗るには、コシのある専用の刷毛が必 要。その最良の材料として選ばれてきたのは、なんと 人間の髪の毛!女性の髪を長年かけて油分をぬいて作 るんですって。

それでは蓋をそっとしめて、
あらためて手箱を
眺めてみましょう。

表面は金のまぶしい輝き。実はこれも金粉をぎっしり と蒔き詰めているのです。そして、白く艶めく上品な 丸い文様は・・・「螺鈿(らでん)」という技法が用い られています。
素材はなんと貝!貝の輝く真珠層の部分を切り抜い て、漆で貼りつけてあるんです。ほんの4cmほどの 丸紋は、4種類、13個もの貝のパーツでできていま す。薄く割れやすい貝をこんなに小さく切り抜いて整 然と並べていくなんて、気が遠くなりそうですね。 螺鈿で使う貝は、夜光貝(やこうがい)や鮑(あわび) など。南の海でとれた貝殻がはるばる運ばれて、素晴 らしい装飾に姿を変える。ロマンあふれる匠の技です。

室町時代になると、
「蒔絵」の世界も三次元に!

漆黒の背景に浮かぶ山並み。黒と金だけのシックな世界! 文様が盛り上がって見える表現のひみつは、金粉の下に下地や漆を重ねていること。描かれた風景にぐっと奥行きが出ます。

漆黒の背景に浮かぶ山並み。たなびく霞のあいまにの
ぞく山里。黒と金だけのシックな世界! 
重要文化財、室町時代の『小倉山蒔絵硯箱(おぐらや
ままきえすずりばこ)』です。
山里の家や、水平にたなびく霞にご注目。背景まで表
面が平らですね。もうおわかりでしょうか? さきほ
どご紹介した、「研出蒔絵」の技法です。

別の部分を見てみましょう。
流水や家の輪郭、草木などは「平蒔絵(ひらまきえ)」
という技法です。「平蒔絵」とは? 「研出蒔絵」より
ちょっとシンプル。金を蒔いて文様を表わしたあと、
全体を漆で塗り込めるのではなく、文様部分にだけ漆
を塗って磨き上げたものです。なので、文様の部分が
少しぽっこりとしていますね。

さらに文様が盛り上がって見える技法が、「高蒔絵(た
かまきえ)」。木や岩を見てください。立体的に表現さ
れていますね。そのひみつは、金粉の下に下地や漆を
重ねていること。描かれた風景にぐっと奥行きが出ま
すね。

金粉や貝もくっつけるほど、強い接着力を持つ漆。その特性を生かした
技法はほかにもたくさん。サントリー美術館のサイトもぜひチェックしてみてくださいね!
次回からは、漆芸品に表された文様に注目していきます。どうぞご期待ください。

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