楽器・ホール・イベント

和楽器(琴)

平安貴族たちのペットのような存在だった!? 「和楽器(琴)」

お正月、初詣に出掛けた先などで琴の音を耳にされた方も多いのではないでしょうか。琴や尺八など和楽器からつむぎだされる音色は、なんとも風流ですよね。和楽器は、おおまかに「弾きもの(弦楽器)」「吹きもの(管楽器)」「打ちもの(打楽器)」と3種類に分けられていますが、今回はお正月に欠かせない「弾きもの」の代表、「琴」について探ってみましょう。

琴、箏、こと・・・

私たちがよく耳にする「琴の音」は、実は「箏(こと)の音」であることをご存じですか?箏は奈良時代、雅楽とともに中国から伝わり日本で花開いた楽器ですが、現在○○流などと一般的に親しまれているのはこの「箏」なのです。

箏 13絃/一般的に行われる箏曲の演奏に用いられるのは、この箏

では「琴」は間違いなのかというとそうではなく、まず「和琴(わごん)」という日本固有の楽器が存在します。別名「やまとごと」ともいい、皇室や、奈良・春日大社での伝統行事で今でも用いられています。

和琴 6絃/皇室や古い寺社の伝統行事で奏され、通常はあまりお目にかかれない

そして「箏」と同じく奈良時代に中国から入った「琴(きん)」という楽器もあり、平安時代には本場中国人にもひけをとらない琴奏者も現れたそうですが、日本の音楽文化になじまなかったのか、明治時代に入るころには途絶えてしまいます。

琴 7絃/その昔平安貴族に好まれた琴は『源氏物語』にも登場している

そもそも昔は「弾きもの」全般を「こと」と呼んでいたそうです。一時期の琴の台頭により「弾きもの=こと=琴」という認識が広がったものの、時代とともに琴が廃れ、箏が主流になった今でも、人々のなかに「こと=琴」のイメージが残ったのかもしれませんね。

そういうわけで、今回のコラムのタイトルも「琴」としています。

ペットのように名前をつけられていた和楽器たち

第60代天皇・醍醐天皇(885~930年)。所持していた箏「秋風」は天皇没後、一緒に御陵に葬られた。

第60代天皇・醍醐天皇(885~930年)。
所持していた箏「秋風」は天皇没後、一緒に御陵に葬られた。

平安時代、宮廷人たちはいくつもの楽器を所有し、ペットのように名前をつけて愛でていたのだとか。醍醐天皇の箏の名前は「しら丸」、「鬼丸」、「秋風」といい、特に天皇のお気に入りだった「秋風」(その音色から名づけられました)は、今は天皇と一緒に御陵に眠っています。村上天皇が所有した箏の名前は「大螺鈿(だいらでん)」。おそらく、光る貝殻の見事な装飾がちりばめられていたのでしょう。

箏の演奏には、平安女性の想いが隠されていた?

箏の各部には“竜”にちなんだ名前がつけられています。特に雅楽※で用いられる「飾り箏」には、至る所に竜が表れています(下図参照)。もともと箏全体の形が竜に似ているからなのかもしれませんが、「(竜のように)天を舞うような音を出したい」という願いが込められているともいわれています。

平安時代から江戸時代にかけて、箏の奏者には女性が多かったそうです。これはこの時代、管楽器の演奏が男性にしか許されていなかったことに関係しているかもしれません。女性は、箏を演奏している間だけ男性中心の社会から抜け出し、竜のように自由に空を舞っている気分でいられたのかもしれませんね。

また、普段は見えない竜舌の部分に金の蒔絵をほどこし、オシャレを楽しんだり・・・箏にはさまざまな楽しみ方があったようです。

日本人の美意識や文化の中で、長い時間をかけ完成された和楽器。奈良・東大寺の正倉院には魅力あふれる和楽器が多く所蔵されており、その数18種75点。同院のホームページでも詳しく紹介されています。

※雅楽…日本固有の古楽に大陸伝来の音楽や舞が加わり融合した芸術。宮中の儀式などで演奏される。

雅楽などで使われる「飾り箏」の部分名 一例(表面)

【参考文献】
『日本音楽の歴史と鑑賞』(音楽之友社)、『筝と箏曲を知る事典』(東京堂出版)

「聴く! 日本のお正月~春の海・越天楽~」
今月の1枚

箏が活躍する邦楽作品の中でも最も親しまれている「春の海」を始め、さまざまな邦楽器が登場する作品の数々を集めたアルバム。箏の他に、三味線や尺八など邦楽独特の鳴り物から雅楽までを網羅した、日本の伝統音楽の魅力が満載の1枚です。
「聴く! 日本のお正月~春の海・越天楽~」

ウエルネスライフマガジン 2017年1月号掲載分

インフォメーション