楽器・ホール・イベント

オルゴール

時計職人たちの遊び心から生まれた「オルゴール」

少しはかなくて、優しい音色が懐かしい気持ちにさせてくれるオルゴール。おもちゃや宝石箱に仕込まれた小さなものから、駅や街中で奏でられる大きなものまで、さまざまな形で日常の風景に溶け込み、いやしの音色を聞かせてくれますよね。そんな身近なオルゴール、かつて日本が生産量世界一だったということをご存じでしたか? なぜ、日本がそれほどのオルゴール生産国になったのか・・・その誕生の歴史からひもといてみましょう。

時を知らせる教会の鐘でメロディを奏でてみたら

オルゴールの祖先は、人々に時を告げる教会の鐘だった。

オルゴールの祖先は、人々に時を告げる教会の鐘だった。

13世紀頃のヨーロッパでは、教会の鐘の音が時計代わりでした。やがて機械時計が考案され、14世紀後半までには各都市に公共の時計台などが建てられましたが、人々は高いところに設置された時計の文字盤を見るよりも、鐘の音を聞いて行動していたとか。

鐘は1つから2つ、そして「カリヨン」と呼ばれる4つ1組になった鐘へ進化しながら、人の手の代わりに「ジャック」と呼ばれる自動人形でつかれるようになります。仕組みを作った時計職人たちは、「鐘の音でメロディを奏でることはできないか?」と思うようになり、複数の鐘、突起のついたシリンダー、鐘をつくハンマーを組み合わせてそれを実現し、現在のオルゴールとほぼ同じメカニズムが出来上がりました。

やがて時計が小型化され携帯されるようになると、鐘やハンマーの収納が難しくなり、これらを改良して生まれたのが「シリンダー・オルゴール」です。

スイスの時計産業を発達させたのは・・・

櫛(くし)の歯のような形の金属(櫛歯)がシリンダーの突起をはじき、オルゴールの音色を形作る。

櫛(くし)の歯のような形の金属(櫛歯)がシリンダーの突起をはじき、オルゴールの音色を形作る。

鐘もハンマーも使わずにメロディを奏でる「シリンダー・オルゴール」(下イラスト参照)を発明したのは、18世紀末頃のスイスの時計職人だったといわれています。スイスは現在でも時計をはじめ世界トップ水準の精密機器を生み出す国というイメージですが、そうした産業の発展には歴史的な背景がありました。

16世紀ヨーロッパに巻き起こったキリスト教世界を二分する宗教改革により、フランスで弾圧を受けたユグノーと呼ばれる改革派は、イギリスやスイスへ亡命しました。亡命者のなかには当時最高レベルの頭脳集団とされた時計職人が多く含まれており、彼らはその才能で亡命先の経済に貢献します。

そうした亡命者たちがスイスの時計産業を確立し、その環境下でオルゴールの開発も進み、スイスをオルゴール大国へと押し上げたのでした。

暗中模索のオルゴールづくりから、世界一へ

サントリーホール正面玄関の上壁に仕込まれたパイプオルゴール。正午と開場時に音楽が奏でられる。

サントリーホール正面玄関の上壁に仕込まれたパイプオルゴール。正午と開場時に音楽が奏でられる。

しかしそんなスイスを、オルゴール生産量で日本が追い越すことになります。文明開化に沸く明治時代、スイス製のオルゴールが外交官や財閥一族などの間で人気を博しましたが、国産オルゴールの登場は1948年(昭和23年)まで待たなくてはなりませんでした。

本場スイスからの技術指導はかなわず、独自の研究と試行錯誤が続き、戦後の復興ムードのなか製造技術の向上と市場拡大のための商品開発が行われました。その甲斐あって、駐留米軍がお土産に買い求める寄木細工や漆塗りの箱にオルゴールを取り付けたものなどが徐々に売れ始めたり、外国人の手によって日本から持ち込まれた小さな箱型のオルゴールがアメリカの大手バイヤーの目に留まり、スイス製に比べて安価で質も良い日本製オルゴールは注目され、輸出も始まりました。

1960年代、アメリカの玩具メーカーから年間契約が入るようになってからは、スイスの総生産量を超え、日本が世界トップのオルゴール生産国となったのでした。

時を告げる鐘から生まれたオルゴール。時代によって音楽環境は変わっていきますが、生活のなかに息づくオルゴールの音色は、これからもなくならないでほしいですね。

サントリーホールの正面玄関にも、パイプオルゴールが仕込まれているのをご存じですか? 正午と開場時には壁が開いて、ぶどう畑の番人と少年の人形がオルゴールを回します(年4回、楽曲は季節によって変わります)。都会のなかで味わえるほっとできるひとときを、ぜひ一度体験してみてください。

鈴木優人(チェンバロ):「rencontre」
今月の1枚

サントリーホール30周年記念のパイプオルゴールの音楽を作曲したことでも知られる指揮者・鍵盤奏者として活躍する鈴木優人が、チェンバロの新たな世界を切りひらいた1枚。
「rencontre」/鈴木優人(チェンバロ)

ウエルネスライフマガジン 2018年2月号掲載分

インフォメーション