クラシックトリビア

クラシック市場最大のヒット曲のひとつに迫る 「なぜ年末に第九?」

皆さんこんにちは。クラシックソムリエの田中泰です。前回の「いざ、コンサートデビュー」はいかがでしたか? 素敵なコンサートライフのための手引きになったとしたら幸いです。さて、今回は、クラシック史上最大のヒット曲のひとつ「第九」の魅力に迫ります。今年の年末は「第九」でレッツ・エンジョイ・クラシック!

なぜ年末に「第九」なのでしょう?

ドイツの偉大なる作曲家、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーベン肖像画

年の瀬が近づいてくると、どこからともなく聞こえてくるあのメロディ。そう、年末のクラシック界は「第九」が花盛りです。今年12月のサントリーホールだけでも11公演、全国規模では例年150以上のコンサートが開催される「第九」。まさに“クラシック史上最大のヒット曲のひとつ”と呼ばれるにふさわしい人気ぶりです。

「第九」の正式名称はベートーヴェンの「交響曲第9番ニ短調(合唱付き)」。音楽室の肖像画でお馴染みの“楽聖”ベートーヴェンが完成させた9番目にして最後の交響曲です。第4楽章には、ドイツの詩人シラーの頌歌を歌詞とする合唱が盛り込まれ、「歓喜の歌」が高らかに歌いあげられます。

ではなぜ年末の日本で「第九」がこれほど演奏されるようになったのでしょう。その理由としては、終戦間もない1947年にN響(NHK交響楽団)の前身である日本交響楽団が年末の日比谷公会堂で演奏した3回の「第九」。それが伝統の始まりになったという説のほか、戦後、苦しい状況下にあったオーケストラ団員の年越し費用を稼ぐために、人気の高い「第九」を年末に演奏する習慣が定着したという説などさまざま。なにはともあれ、今や「第九」は日本の年末を飾る風物詩であることは間違いありません。

「第九」の魅力と過去の名演奏~いまどきの「第九」事情とは

ベルリン統一のシンボル、ブランデンブルグ門

さて、日本では年末に集中する「第九」ですが、世界的にはどうなのでしょう。オーケストラのほかに合唱団やソリストまで必要とする「第九」は、規模の大きさもあってそう頻繁に演奏されるものではなく、メモリアルなコンサートで演奏されることが多いようです。

その演奏の歴史を振り返ってみれば、ワーグナーの“聖地”「バイロイト祝祭劇場」では、建設の定礎記念(1872年)や第二次世界大戦後の音楽祭再開(1951年)記念に「第九」が演奏されています。さらには、大戦で破壊された「ウィーン国立歌劇場」の復興記念コンサート(1955年)で演奏されたのも「第九」でした。近年では、1989年のベルリンの壁崩壊直後にレナード・バーンスタインの指揮で演奏されたメモリアルな「第九」が記憶に残ります。

そして、日本における「第九」の新たな傾向として注目されるのが“参加型の「第九」”です。合唱団の一員として、年に1度ステージに立って「第九」を歌うことを楽しみとしている人の増加。それがさらに「第九」人気に拍車をかけているようです。

「第九」選びの基礎知識

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団演奏の「第九」

それでは、「第九」の熱気を実際に体験してみたい、という方のために「第九」選びのポイントをアドバイス致しましょう。まずお薦めなのが、お気に入りのコンサートホールのスケジュール表の中から選ぶ方法。土日・祝日の昼公演(マチネ)の「第九」公演は人気が高いので早めの予約が必要です。「第九」の余韻に浸りながらディナーを楽しみたいというのは、みなさん共通の想いなのでしょうね。

続いては、オーケストラや指揮者・ソリストによって選ぶ方法。「第九」の聴き比べをしてみたい方には特にお薦めです。話題の指揮者や歌手をチェックするのも楽しみの1つ。さらには、「第九」と一緒に演奏されるプログラムで選ぶのも素敵です。「アンケートによる人気曲を演奏!」や、定番の人気曲を組み合わせた「第九と四季」などなど、趣向を凝らしたプログラムからは、各オーケストラの個性や特徴が垣間見られます。

そしてチケットをゲットしたならば、事前にCDを聴いておくなどの予習も必要です。有名な「歓喜の歌」を含めた「第九」の演奏時間は1時間あまり。これはCD1枚の収録時間を決める基準にもなったということですが、有名な「歓喜の歌」に至るまでの時間の長さは初心者にはなかなか大変。その結果の「歓喜の歌」だからこそ、感動も大きいのでしょう。というわけで、今年の年末は、ベートーヴェンの自筆譜が「ユネスコ記憶遺産」にも登録されている「第九」をぜひご体験あれ。

ベートーヴェン:交響曲第9番二短調(合唱付き)
今月の1枚

ベルリンの壁崩壊直後の1989年12月25日に行われたこの演奏は、6ヶ国からなる混成オーケストラを臨時編成。第四楽章の歌詞を「フロイデ=歓喜」を「フライハイト=自由」に変更して歌われた。
ベートーヴェン:交響曲第9番二短調(合唱付き)

ウエルネスライフマガジン 2015年10月号掲載分

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