クラシックトリビア

弦楽四重奏には音楽のエッセンスがぎっしり 「室内楽の魅力に迫る その2」

皆さんこんにちは。クラシックソムリエの田中泰です。前回の「室内楽の魅力に迫る その1」は、お楽しみいただけましたか? 今回は「室内楽」の王道と称される弦楽四重奏についてご紹介します。レッツ・エンジョイ・クラシック!

弦楽四重奏はなぜすごいのか

(上段左から)バイオリン、ヴィオラ、バイオリン(下段)チェロ

数多くの楽器編成が存在する「室内楽」の中でも、究極のスタイルと称されているのが弦楽四重奏です。その編成は、2つのバイオリンとヴィオラにチェロという4つの弦楽器で構成されるのが一般的。最も初期の弦楽四重奏曲は、イタリアの作曲家アレッサンドロ・スカルラッティ(1660-1725年)の書いた「2つのバイオリン、ヴィオレッタとチェロのためのソナタ」だと言われています。その後、他の作曲家たちもこのスタイルをまねて曲作りを始め、ヨーロッパ中に広まったその流れが“弦楽四重奏曲の父”と呼ばれたハイドンへと受け継がれることによって、弦楽四重奏の持つ可能性が一気に開花したのです。

ハイドンが遺した弦楽四重奏曲の数は68曲。贋作の疑いのあるものも含めた通し番号は83番にまで及びます。彼の後に続くモーツァルト(26曲)とベートーヴェン(16曲)による偉大な創作リレーによって、弦楽四重奏はクラシックの王道であるとみなされるようになり、後世の音楽家たちにも大きな影響を与えました。ではいったいなぜ作曲家たちは弦楽四重奏に惹きつけられるのでしょう。

その答えは無駄を省いた究極の姿にあるようです。例えば、オーケストラの規模を徐々に縮小していくと、最後に残る姿が弦楽四重奏だと考えられます。つまり弦楽四重奏には、オーケストラのエッセンスのような表現力があるのです。そう思えば、ザ・ビートルズが「イエスタデイ」の中に弦楽四重奏を取り入れて音楽の幅を広げたことにも納得です。

宇宙空間を飛行している弦楽四重奏がある!?

宇宙探査機ヴォイジャーに乗り、宇宙空間を飛行中の弦楽四重奏曲第13番「第5楽章:カヴァティーナ」。

その弦楽四重奏を聴いてみたいと思う方にお薦めしたい作品を列挙してみると、ハイドンの第67番「ひばり」&第77番「皇帝」、シューベルトの第14番「死と乙女」、チャイコフスキーの第1番「第2楽章:アンダンテ・カンタービレ」、ボロディンの第2番「第3楽章:ノクターン」、ドヴォルザークの第12番「アメリカ」あたりはいかがでしょう。どれも印象的なメロディが心に残ること請け合いの名曲揃いです。

変わったところでは、宇宙空間を飛んでいる弦楽四重奏の存在をご存知でしょうか? 1977年に打ち上げられたアメリカの宇宙探査機ヴォイジャーには、地球の生命や文化の存在を伝える音や画像が収められた「ゴールデンレコード」が搭載されています。

その目的は、地球外知的生命体に地球人の存在を知らせること。さまざまなジャンルの音楽と共にクラシックの中から選ばれたのは、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンにストラヴィンスキーの代表作。その中の1曲がベートーヴェンの弦楽四重奏曲第13番の「第5楽章:カヴァティーナ」なのです。宇宙人が聴いたらどう思うのか興味津々。ヴォイジャーは今も地球外知的生命体との出会いを求めて宇宙空間を飛行中です。

ベートーヴェンの弦楽四重奏を体験しよう

「カヴァティーナ」が聴けるかも? 今年の「チェンバーミュージック・ガーデン2016」の顔、クァルテット・エクセルシオ。

そう聞くと「カヴァティーナ」を聴いてみたくなりませんか? 「カヴァティーナ」を含むベートーヴェンの弦楽四重奏曲は、彼の交響曲にも匹敵するほど評価の高いクラシック史上に残る金字塔です。その高みを体験してみるのはいかがでしょう。

サントリーホールを彩る室内楽の祭典「チェンバーミュージック・ガーデン」の中で脈々と続いているのがベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏「ベートーヴェン・サイクル」。毎年素晴らしい弦楽四重奏団が選ばれるこのコンサートの今年の顔はクァルテット・エクセルシオです。日本を代表するアンサンブルならではの息の合ったハーモニーが期待できそう。

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲全集
今月の1枚

ヴォイジャーのゴールデンレコードに刻まれて今も宇宙空間を飛行している録音が、このブダペスト弦楽四重奏団の演奏による第13番の「第5楽章:カヴァティーナ」。20世紀を代表するアンサンブルに最上の遺産だ。
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲全集

ウエルネスライフマガジン 2016年5月号掲載分

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