クラシックトリビア

天から授かった音楽的才能か、はたまた…? 「絶対音感」

日常生活は、さまざまな音であふれています。救急車のサイレン音、鳥のさえずり、時報を知らせる電子音・・・これらを「高い音」「低い音」というだけでなく、具体的に「ド」や「ソ」など音名で認識できる能力を“絶対音感”といいます。1998年に『絶対音感』(最相葉月著)という本がベストセラーになったので、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。ではこの絶対音感、実際に音楽を職業とする方々には備わっているものなのでしょうか?また、絶対音感なくして偉大な音楽家にはなれないのか?など、絶対音感にまつわる疑問に迫ってみましょう。

音楽家に絶対音感は必要?

心地よい音楽の3要素 リズム メロディ ハーモニー

瞬時に音を認識し、譜面に記すことができる能力・絶対音感。音楽を学ぶ上では役立ちそうですね。しかし、素晴らしい音楽家になることと絶対音感を持つことは別物のようです。

西洋音楽は「リズム(律動)」、「メロディ(旋律)」、「ハーモニー(和声)」の3要素で出来ており、これらをうまく組み合わせることで人が「美しい」と感じる音楽がうまれます。心地よい音楽、人を感動させる音楽をつくるには、ひとつの音程を正確に聞き分けられる絶対音感よりも、むしろ音と音との組み合わせ、相対的な音程を認識する能力“相対音感”が大切になってきます。

音の高低を聞き分ける程度の相対音感はたいていの人が本質的に持っていますが、より高度な「美しい響き」や「調和のとれた音楽」をうみ出すには、この相対音感を磨くことの方が重要かもしれませんね。

絶対音感を持つピアニストに聞いてみました。
「あなたにとって“絶対音感”とは?」

ピアニスターHIROSHIさん

「右手でポップス、左手でクラシック」と違う曲を同時に即興演奏できるピアニスト兼作曲家のHIROSHIさん。ピアノを習い始めた5歳半から、他人の弾く音がドレミ・・・の音名で聞こえたそうです。

「そもそも自分が絶対音感の持ち主だとさえ知りませんでした」という彼は、こう語ります。「絶対音感の有無が、音楽的表現力を左右することはないと思います。例えるなら、『L(エル)とR(アール)の発音の違いを聞き分けられる耳を持った人が、必ずしも英語でのコミュニケーションが上手いとは限らない』というようなもの。私が絶対音感を持って得したと思えるのは、カラオケのイントロを聞いた瞬間、『自分なら、この曲はキー2つ下げ』と即断できることくらいでしょうか」。

絶対、相対、そして・・・“だいたい”?

子供がピアノを弾いている風景

子どもに絶対音感を習得させるための音楽教育法もあるようですが、音楽大学では絶対音感のトレーニングなど行われているのでしょうか?

実は最近、音大生の間で“だいたい音感”という言葉が使われています。「正確ではないけれど、だいたい音は合っているというあいまいな音感」のことで、別名“あいまい音感”。このあいまいさも音楽の幅を広げるひとつの要素になるのでしょうか、絶対音感にこだわる風潮はありません。

絶対音感と音楽的センスに直接的な因果関係はないとしても、自分に絶対音感があるかどうかは一度確かめてみても良いかもしれませんね。クイズ感覚で自分の音感力を調べたり、トレーニングもできる無料アプリやインターネットのサイトもありますので、一度、試してみてはいかがですか?

ショパン:前奏曲集/マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
今月の1枚

絶対音感の持ち主ではないピアニスト、マルタ・アルゲリッチが異なる24の調性(キー)をスケールの大きな演奏で披露。コンサート後、本CDにも収録されている『ト長調の前奏曲』の演奏をほめられても「どの曲のことか判らず考え込んだ」とか。
ショパン:前奏曲集/マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)

ウエルネスライフマガジン 2016年6月号掲載分

インフォメーション