クラシックトリビア

「アナログ・レコード」のイメージ写真

デジタル時代も根強い人気 「アナログ・レコード」

アナログ・レコード(以下レコード)が数年前から静かなブームとなっているのをご存じでしょうか。CD(コンパクトディスク)の売れ行きが低迷するなか、2010年には約10万枚にまで落ち込んだレコードの国内生産量は、2016年には80万枚に迫り※、某音楽事業会社ではレコードの人気再燃を受け30年ぶりにレコードの生産が再開されたほどです。そこで今回は、注目の高まるレコードの歴史を振り返りつつ、その魅力を探ってみましょう。
※一般社団法人 日本レコード協会 調べ

音楽文化に革命! 蓄音機の誕生と円盤型レコードの登場

蓄音機の写真

最初の録音・再生装置となるエジソン製作の蓄音機は、台座の上の円筒管に音の溝を刻んでいた。

東京理科大学 近代科学資料館 所蔵

英語で「記録」という意味の「レコード」が生まれたのは、19世紀後半。まずフランスで紙の上に音声を記録する方法が発明され、その後エジソンが記録から再生までを可能にする蓄音機をつくり、現在のレコードやプレーヤーの基本原理(音の振動で針が物体に溝を作り、その音声信号を拾って拡張再生させる仕組み)が整っていきました。

40代以上の方であればお馴染みの、水平なターンテーブルと円盤型のレコードは1887年に登場。日本では、東京・銀座で貴金属を商う天賞堂が1903年(明治36年)にはじめて輸入し、レコードは「平円盤(へいえんばん)」、プレーヤーは「写声機(しゃせいき)」と呼ばれていました。当時の新聞『時事新報』では「平円盤1円75銭から5円まで、写声機36円から75円まで」と記されています。駅弁ひとつが15銭の時代、レコードやプレーヤーは、相当な高嶺の花だったでしょう。

柔らかい音、豊かな響きが楽しめるレコードの魅力

レコードの針とターンテーブルのイメージ写真

レコードのホコリを丁寧に拭い、ターンテーブルに載せ、指先の震えを抑えながらゆっくりと針を落とす・・・こうした“手間”(?)もレコードの魅力だそう。

高級品だったレコードは、戦後、技術革新を経て庶民の暮らしに浸透し、しばらく音楽文化の中心でした。しかし利便性に優れたCDが1982年に登場すると、あっという間にその座を奪われ、1990年代前半には「レコードは終わった」かに見えました。そして今や音楽はインターネットからダウンロードできる時代。そんな時代に、なぜ、再びレコードなのでしょうか。

レコード愛好家によると、レコードの音は「柔らかい」「広がりのある」音だといわれ、それがデジタルにはない魅力のひとつのようです。CDは名前の通り「コンパクトに」音楽をストックするのが強みで、人の聴力を超えた音域やノイズはあらかじめデジタル処理(カット)されています。

一方レコードは、針が音の振動を拾いレコード盤に凹凸を刻んで録音、再び針でその凹凸をこすって再生、というアナログな仕組みなので、物理的には聞こえない音まで拾って再生しています。このためCDでは「クリアな(聞きとりやすい)」音が楽しめる一方、レコードはより広い音域(聴力を超えた域まで)をカバーし、それがより柔らかで豊かな響きを再現しているのかもしれませんね。

『ジャケ買い』という言葉を生んだレコードジャケットの魅力

THE VELVET UNDERGROUNDのアルバム『THE VELVET UNDERGROUND & NICO』のジャケット写真

アンディ・ウォーホルがアルバム制作のプロデュースから関わったというTHE VELVET UNDERGROUND『THE VELVET UNDERGROUND & NICO』
 
(c) Universal Music

そしてCDや音楽配信にはない、レコードならではのもうひとつの魅力が「ジャケット」だといわれています。かつてはアンディ・ウォーホルなど、時代を代表する画家やグラフィック・デザイナーが手掛けたものも多く、大型のLP版はまるでそれ自体がアート作品です。CDジャケットのセンスうんぬんというよりも、13センチ角のCDパッケージでは一辺30センチを超えるLP版のインパクトには勝てない、ということなのでしょう。

さて、久しぶりにレコードを聴いてみようと思っても、「もう処分してしまった」という方も少なくないでしょう。しかしレコード再燃の波は昔のアルバムを復刻させる動きにも発展しています。一世を風靡したジャズ、クラシック、ロックの名盤がオリジナルの音質で再び限定生産されたりしているので、そうした復刻版で昔を思い出してみるのもいいかもしれませんよ。

音響にこだわったオーディオでレコードを堪能できる“名曲喫茶”もまだまだ健在。お店によってはリクエストに応じてくれたり、持参したレコードをかけてくれるところもあるようです。時には、スピーカーから流れる柔らかなレコードの音に包まれ、ただただ音楽に身をゆだねるぜいたくな時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

【参考文献】
『アナログレコード再聴戦』(径書房)、『日本レコード文化史』(岩波現代文庫)、『音楽大事典5巻』(平凡社)

グレン・グールド「ゴールドベルク変奏曲」のCDジャケット写真
今月の1枚

クラシック史上に残る伝説のアルバム、グレン・グールド「ゴールドベルク変奏曲」。収録時の全てのスタジオテイクを収めたCDと発売当時のLPがセットになったこのアルバムは、アナログの魅力を確認する上でも最適です。
「ゴールドベルク変奏曲 コンプリート・レコーディング・セッションズ1955」/グレン・グールド(ピアノ)

ウエルネスライフマガジン 2017年10月号掲載分

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