クラシックトリビア

「フィギュアスケート」のイメージ写真

技を光らせ、ストーリーを際立たせる 「フィギュアスケートの音楽」

冬は、フィギュアスケートファン待望の季節。毎年10月頃から年末にかけてはグランプリシリーズと呼ばれる国際大会が世界6都市で開催され、勝ち上がった上位者で競われる最終戦まで一気に盛り上がっていきます。選手たちの演技に欠かせない“音楽”には多くのクラシック曲も使用されていますが、どんな曲が好まれ、使用されているのか・・・今回は、フィギュアスケート競技を盛り上げるクラシック音楽にフォーカスしてみました。

演技に欠かせない、曲選びのポイントは・・・

まずは、フィギュアスケート競技における選曲のポイントを見てみましょう。演技時間はそれぞれのプログラムで決まっていますので、それに合わせて原曲は編曲されます。既定のジャンプやステップを盛り込みながら見せ場を作り観客や審査員を引き込んでいくには、曲選びはもちろんのこと、この編曲作業も重要です。求められる課題をクリアするために同じ小節を繰り返したり、短く削ったり・・・スポーツ競技としての完璧さを求めるために、時には音楽の芸術性を犠牲にすることもあるそうです。

また、音楽と振り付けが合っていることはもちろん、選手のキャラクターや得意な滑りを音楽が十分に引き出せているかもポイントでしょう。

フィギュアスケート競技の基本ルール(2017年現在)の説明図

フィギュアスケート競技でよく耳にする、あの曲は・・・

ラフマニノフとショパンのイメージイラスト

オーケストラ曲などに比べシンプルなピアノ曲は繊細な演技を際立たせる。

流れるような繊細な演技に映えるピアノ曲の中でも、ラフマニノフの「ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調」は、日本人選手だけでも過去に4人、海外選手も合わせると非常に多くのフィギュアスケーターたちに選ばれている曲です。第1楽章の導入は、ロシア正教会の鐘の音をイメージしたといわれるピアノ・ソロ。厳かな和音の連打がだんだんと大きくなり、最高潮に達したところで弦楽合奏が加わり、メロディに切なさを漂わせます。神秘的かつ叙情的で、ラフマニノフの出身地である大国ロシアを彷彿(ほうふつ)とさせるこの曲は、彼の出世作でもあります。

その他、ショパンの「バラード 第1番 ト短調」や「幻想即興曲」もフィギュアスケートの競技でよく耳にします。ピアノの優しく、時に激しい調べが優雅で気品にあふれた滑りにマッチするのかもしれませんね。

表現力あふれる! オペラやバレエの曲を使ったスケーティング

バレエをしている女性のイメージ写真

動作やポーズを美しく見せるダンスの基本はバレエから。

“氷上の芸術”フィギュアスケートでは技術力に加え、表現力や、演技の構成力も大きな評価対象です。特にドラマ的要素の強いオペラ曲を用いる場合、それが一層際立ちます。古代中国を舞台とした『トゥーランドット』の第3幕「誰も寝てはならぬ」は、国籍や性別を問わず多くの選手に用いられている人気曲。氷のように冷たいトゥーランドット姫の心が勇敢な王子の愛の力で溶かされていく劇中のクライマックスを、さまざまな選手がどのように表現しているのか、滑りを見比べるのも面白いでしょう。

また、遡ること1984年、ある世界大会でイギリスのペアが滑ったアイスダンスに審査員全員が芸術点で満点※をつけ、当時話題となりました。その時の曲が、ラヴェル作曲のバレエ音楽「ボレロ」。一定のリズムを刻む小太鼓とフルートでひそやかに始まった演奏は、次々と異なる楽器が加わることで次第に力と色彩を帯び、それに伴ないふたりの演技も精彩を放っていきます。そして突然、音楽の終わりが訪れ、ふたりが氷上に崩れ落ちるという衝撃のラスト。技と音楽が完璧に一体化しひとつの芸術作品となった演技は、氷上でしか見ることのできない新しい「ボレロ」の世界を創り出しました。

※当時は現在の採点方式と異なり、審査員が技術点と芸術点でそれぞれ6.0点の持ち点で採点した。

最高の演技のために考え抜かれ、選ばれるスケーティング・ミュージック。観てから聴くもよし、聴いてから観るもよし、フィギュアスケート観戦は音楽にも注目してみてはいかがでしょうか。また、「いいな」と思った曲は、ぜひ編曲される前の原曲でも楽しんでみてください。

【参考文献】
『フィギュアスケート ミュージック・ガイドブック』(ヤマハミュージックメディア)、
『村主章枝のフィギュアスケート ここがわかればもっとオモシロイ!』(PHP研究所)、
『トリノ2006 トゥーランドット フィギュアを彩った名曲たち』(ショパン)、『氷上のアーティストたち』(日本経済新聞社)

「浅田真央 ベスト・オブ・スケーティング・ミュージック」のCDジャケット写真
今月の1枚

クラシック音楽とフィギュアスケートの結び付きの強さを実感できるのがこのアルバムです。元フィギュアスケート選手、浅田真央が競技やイベントで使用してきた代表曲を集めた初のベスト盤。氷上の美しい姿を思い描きながら聴いてみたい1枚です。
「浅田真央 ベスト・オブ・スケーティング・ミュージック」

ウエルネスライフマガジン 2017年11月号掲載分

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