動作やポーズを美しく見せるダンスの基本はバレエから。
“氷上の芸術”フィギュアスケートでは技術力に加え、表現力や、演技の構成力も大きな評価対象です。特にドラマ的要素の強いオペラ曲を用いる場合、それが一層際立ちます。古代中国を舞台とした『トゥーランドット』の第3幕「誰も寝てはならぬ」は、国籍や性別を問わず多くの選手に用いられている人気曲。氷のように冷たいトゥーランドット姫の心が勇敢な王子の愛の力で溶かされていく劇中のクライマックスを、さまざまな選手がどのように表現しているのか、滑りを見比べるのも面白いでしょう。
また、遡ること1984年、ある世界大会でイギリスのペアが滑ったアイスダンスに審査員全員が芸術点で満点※をつけ、当時話題となりました。その時の曲が、ラヴェル作曲のバレエ音楽「ボレロ」。一定のリズムを刻む小太鼓とフルートでひそやかに始まった演奏は、次々と異なる楽器が加わることで次第に力と色彩を帯び、それに伴ないふたりの演技も精彩を放っていきます。そして突然、音楽の終わりが訪れ、ふたりが氷上に崩れ落ちるという衝撃のラスト。技と音楽が完璧に一体化しひとつの芸術作品となった演技は、氷上でしか見ることのできない新しい「ボレロ」の世界を創り出しました。
※当時は現在の採点方式と異なり、審査員が技術点と芸術点でそれぞれ6.0点の持ち点で採点した。
最高の演技のために考え抜かれ、選ばれるスケーティング・ミュージック。観てから聴くもよし、聴いてから観るもよし、フィギュアスケート観戦は音楽にも注目してみてはいかがでしょうか。また、「いいな」と思った曲は、ぜひ編曲される前の原曲でも楽しんでみてください。