クラシックトリビア

「コンクール」のイメージ写真

それでも気になる? 順位のゆくえ 「コンクール」

スポーツや芸術などの分野で技量を競う、「コンクール」。アマチュア最高峰を決めるものや、プロへの登竜門である場合が多いですね。今回は、世界と日本におけるクラシック音楽のコンクールをのぞいてみながら、「音楽にとって、コンクールとは何なのか?」ということを、国際コンクール優勝経験を持つ現役ピアニストのインタビューも交えて考えてみました。

クラシック界の『コンクール』といえば・・・

クラシック界のコンクールで筆頭といえば、「ショパンコンクール」でしょう(正式名:フレデリック・ショパン国際ピアノ・コンクール)。言わずと知れた大作曲家、ショパンの故郷ワルシャワで「ショパンのピアノ作品のみ」で競う珍しいコンクールとしても有名です。年齢制限が厳しい上に、5年に一度しか開催されないため、入賞するのは至難の業。歴代優勝者のその後の活躍からもレベルの高さがうかがえます。

世界3大コンクールといわれるもの(下図参照)のなかで、作曲家の名を冠したもう一つのコンクールに「チャイコフスキー国際コンクール」があります。東西ヨーロッパが“鉄のカーテン”と呼ばれる見えない壁で分断されていた1900年代半ば、ソビエト社会主義共和国連邦(当時)は東(社会主義体制)の威信をかけ、祖国が輩出した天才チャイコフスキーの名の下にコンクールを立ち上げましたが、第1回のピアノ部門優勝者はなんと西(資本主義体制)の演奏者。米ソ冷戦真っただ中に、ソ連の聴衆がアメリカ人の演奏を支持したというニュースは世界を駆け巡り、このコンクールは一躍有名になったのだとか。

「クラシック・世界3大コンクール」の図

より多くの才能に光を! コンクール創設の意義

「日本音楽コンクール」イメージジ画像

日本音楽コンクールの審査は、作曲・声楽・ピアノ・バイオリン・クラリネット・トランペット部門に分かれる。

では、日本のコンクールの歴史はどうなっているでしょうか。日本で最初に開かれたのは、1932年の「音楽コンクール」(時事新報主催)。後に「日本音楽コンクール」と改称し、今でもプロを目指す音楽家の目標となっています(現在は毎日新聞社と日本放送協会の共催)。このコンクール創設の目的は「未来の音楽界を担う新進演奏家の発掘」でしたが、この目的こそがその後の音楽界の発展に重要でした。

明治時代以降、官学主義中心の日本では、音楽家としてデビューするにも官立の音楽学校を出ることが暗黙のルールで、それ以外の若い才能は世に埋もれていました。折しも音楽ジャーナリズムが勃興し、私立の音楽学校が次々と新設されていたころ、「音楽コンクール」はより多くの才能にスポットを当てようとする試みでした。初めは反対した官学派の人々も、真の実力を競うことへ挑戦心をかき立てられ、徐々に音楽界全体の取り組みへと発展していったのでした。

現役ピアニストにインタビュー! コンクールの今、昔・・・

「清水和音さん」の写真

サントリーホールの落成記念コンサート(1986年)以来、長きにわたりサントリーホールで演奏してきた清水和音さん。

20歳でパリのロン=ティボー国際コンクール・ピアノ部門で優勝、同時にリサイタル賞を受賞し鮮烈なデビューを飾った清水和音(かずね)さん。以来30年以上第一線を走る清水さんに、「コンクール」とはどんな存在なのか聞いてみました。

「コンクールは、音楽とはなじまないと思っています。芸術は競争じゃない」。音楽教育にも携ってきた清水さんは、若い世代、とくに子どものコンクール参加に異を唱えます。「〇〇ちゃんよりいい点だった、ということがその子の音楽の基準になってしまったら、それだけで小さな人間を作ってしまう。音楽に勝ち負けの意識が刷り込まれるのはもったいないことです」。

現在ほど手軽に情報が入手できなかった昔、コンクールは世界中に散らばるまれな才能を見つけ出す手段として、一定の役割を担っていました。しかしグローバル化が進んだ今、「コンクールの本来の役割は終わったのでは」と清水さんは言います。

では音楽家にとって、コンクールとは・・・? 「僕自身は、コンクールで優勝したことで仕事がたくさん舞い込んできて、それはありがたいことでしたよ(笑)。でも、商業的な成功と、音楽家としての成功は別物です。大事なのは自分が音楽家としてどうあるべきかであって、他人の評価ではないのです」。それを理解した上で、チャンスを広げるちょっとした“スパイス”にコンクールを活用してほしい、と音楽家の卵たちには伝えているのだそう。

より多くの人に、平等にチャンスを与える機会だったコンクール。しかし情報伝達の手段も増えた今、コンクールは新しい役割を模索する時期に来ているのかもしれませんね。

【参考文献】
『知ってるようで知らない コンクールおもしろ雑学事典』(ヤマハミュージックメディア)

「ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ集 Vol. 1」/清水和音(ピアノ)」のCDジャケット写真
今月の1枚

1981年のロン=ティボー国際コンクール・ピアノ部門の覇者、清水和音が現在最も力を注いでいるベートーヴェン。「悲愴」「月光」「熱情」のいわゆる“3大ソナタ”に込められた強い意志と抜群のテクニックによる演奏は、聴き応え十分の素晴らしさです。
ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ集 Vol. 1」/清水和音(ピアノ)

ウエルネスライフマガジン 2018年6月号掲載分

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