クラシックトリビア

「ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団」のイメージ写真

ウィーンの空気まで感じる! 「ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団」

毎年元日に開催される、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(以下、ウィーン・フィル)によるニューイヤー・コンサート。1939年から続き、今では世界90カ国以上で放映されますので、テレビでご覧になったことのある方もいらっしゃるでしょう。2019年は、音楽の都ウィーンを首都とするオーストリアと日本が友好関係で結ばれて150周年を迎えるアニバーサリーイヤー。2019年最初のコラムでは、ウィーン・フィルの魅力をご紹介します。

音楽のための音楽、が生まれた瞬間

「ウィーンのホーフブルク宮殿」の画像

ウィーン・フィルの歴史の始まりとなった演奏会が開かれたウィーンのホーフブルク宮殿。(写真は1898年以前のもの)

ウィーン・フィル創設の発端は、1842年にウィーンの宮廷歌劇場の楽長が開いたある演奏会。「ウィーンで数々の傑作を生み出したベートーヴェンの音楽を再現する」という旗印のもと、プログラムが組まれました。

今日ではオーケストラがベートーヴェン作品を演奏することなど珍しくありませんが、当時の演奏会は作曲家本人による新作発表会か、バレエやオペラを盛り上げる“伴奏”音楽を聴く場。過去の作曲家(ベートーヴェンは1827年死去)の作品を“音楽だけ”で楽しむという試みは画期的でした。その目的は、脇役扱いのオーケストラ団員にスポットライトを当てるという計らいもありながら、かつての傑作を「“正しい音”でよみがえらせる」という、楽長の理想が形となったものだったのです。

これを機に、演奏家たちのくすぶっていた音楽への情熱が噴出。「音楽の無形の価値を継承する」というミッションに結び付き、音楽のための音楽を奏でるプロの演奏家集団が誕生しました。

ウィーン・フィルの音を特別にしているもの

「ウィーン・フィルの団員」のイメージ画像

ウィーン・フィルの団員になるには、まずウィーン国立歌劇場管弦楽団の一員として実力を証明しなければならない。

ウィーン・フィルの指す、“正しい音”とは何でしょう。ニューイヤー・コンサートの定番曲「ウィンナ・ワルツ」をウィーン・フィルが奏でると、2拍目が前のめりに走り、3拍目はためらいがちに遅れます。その“間”が、音符にならないウィーンの空気や色彩をはらみ、聴衆の耳にワルツの神髄を響かせているのです。それは技術を超えた、演奏者の内にある“ウィーン気質”の表れ、ウィーン・フィルならではのリズムを生みます。

もともと宮廷歌劇場のメンバーからスタートしたウィーン・フィル。現在も、ウィーン・フィルの団員になるには、まずウィーン国立歌劇場管弦楽団に入らなければなりません。歌劇場は、主にオペラが催される場所。セリフに音楽を合わせたり、舞台上の歌手の動きを見ながら演奏したり、いわゆる“場を読む”技術も必要とされます。そうした経験が団員の身体感覚にすり込まれ、オーケストラ演奏の際にも絶妙のハーモニーを生み出しているといえるのではないでしょうか。

ウィーン・フィルは、常任の指揮者を持たない楽団としても、まれな存在です。団員自らが公演プログラムを決め、コンサートごとに客演指揮者を招聘(しょうへい)します。団員によって自治運営されるウィーン・フィルは、音楽にも自主独立の精神を貫いているのです。

『ウィーンの響き』たらしめる、もうひとつの要素

「ウィンナホルン」のイメージ画像

ウィーン・フィルで常時使用されているウィンナホルンは、一般的なホルンに比べて、より柔らかく温かい音を出す。

20世紀を代表する指揮者のひとり、フルトヴェングラーがウィーン・フィルの演奏を聴き、「自分の指揮するオーケストラでも同じ響きを!」と思い、同じ楽器を調達し演奏したところ、まったく艶のない鈍い音になってしまった、という話があります。巨匠の指揮のもと同じ楽器を用いても、ウィーン・フィルのビロードのような響きは作り出せなかったのです。

ウィーン・フィルでは楽器の扱いもユニークで、一部コンサートマスターなどを除き、楽器は共有して使います。演奏会後、楽団に楽器を返した団員が手ぶらで帰るという慣習は、ウィーン・フィルならでは。楽器は伝統的なものが多く、現在普及しているものより音が小さかったり不安定だったりするものもありますが、その不完全性も含め「ウィーンの響き」を形作っているのでしょう。使い込まれた楽器たちは「機能的に完璧であることが芸術の価値ではない」と、私たちに教えてくれます。

ウィーンを知り尽くした演奏者たちがウィーン伝統の楽器を使い、ウィーンで生まれた音楽文化を守り抜く。本番・リハーサルを含め年間300日も演奏に費やすといわれるウィーン・フィルが奏でる本物のサウンドを、まずはCDやDVDで、そしていつかは生演奏で・・・ぜひ体感してみてください。

【参考文献】
『ウィーン・フィル 音と響きの秘密』(文春新書)

「フランツ・ウェルザー=メスト指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団「ニューイヤー・コンサート2013」」のCDジャケット写真
今月の1枚

2010年にウィーン国立歌劇場総監督に就任したウェルザ−=メストによる2013年のニューイヤー・コンサートは華やかさの極み。2018年のウィーン・フィル、サントリーホール公演でもその実力をいかんなく発揮したことが記憶に残ります。
フランツ・ウェルザー=メスト指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
「ニューイヤー・コンサート2013」

ウエルネスライフマガジン 2019年1月号掲載分

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