クラシックトリビア

「宝塚歌劇団」のイメージ写真

清く 正しく 美しく。 「宝塚歌劇団」

舞い散る紙吹雪、きらびやかなラインダンス。漫画の主人公のような美男美女が繰り広げる夢の世界「タカラヅカ」。移ろいやすいエンターテインメント界で唯一無二の地位を築き、人気の演目やスターの退団公演チケットは一瞬で完売するといわれるほど。今回は、公演開始1世紀以上経てもなお不動の人気を誇るそんなタカラヅカの魅力を、元タカラジェンヌへのインタビューも交えてお伝えします。

意外と知られていない事実。タカラジェンヌは・・・

「宝塚駅」のイメージ画像

レトロモダンなあずき色の車体で親しまれる阪急電車。阪急今津線の北の終点に「宝塚駅」がある。

1小説や映画の舞台にもなるほど人気の阪急電鉄沿線エリア。その開発を手掛けた阪急電鉄の創業者、小林一三(こばやしいちぞう)こそがタカラヅカの生みの親です。「家族ぐるみで安心して楽しめる国民劇を作りたい」と、事業のかたわら少女歌劇団を結成、現在は「宝塚歌劇団」として阪急電鉄の一部門を担っています。舞台を務めるタカラジェンヌたちが、実は電鉄会社の“社員”という事実にはちょっと驚きですよね(入社後数年でタレント契約に切り替わるそう)。

シャンソンの発信地、タカラヅカ

「すみれ」の画像

「再び白いライラックが咲いたら」というドイツ歌曲の「ライラック」を、日本でなじみのある「すみれ」に変え、「すみれの花咲く頃」として広く親しまれるようになったといわれる。

宝塚歌劇団は未婚女性だけで構成される世界でも珍しい劇団ですが、1927年に上演された『モン・パリ』に代表されるレビュー※という新しい芸術アプローチで“男装の麗人”が大活躍。すると、現実にはあり得ない(?)理想の男性を演じる男役が女性ファンを熱狂させ、以来、男役トップスターがタカラヅカの人気をけん引しています。

『モン・パリ』はシャンソンを日本に初めて紹介した作品でもあり、西洋の曲に軽妙な日本語訳をつけた主題歌がラジオで流れると、たちまち全国で人気に。その後も『パリゼット』(1930年)や『ローズ・パリ』(1931年)などの作品の中で、次々と日本人に分かりやすくアレンジされたシャンソンが使われ、タカラヅカはシャンソンの発信地となったのです。『パリゼット』の主題歌「すみれの花咲く頃」は、今や宝塚歌劇団を象徴する曲でもあります。

シャンソンの他にも、クラシック、ジャズ、ラテンやタンゴなどあらゆるジャンルの音楽が専属オーケストラの生演奏で楽しめるのもタカラヅカの魅力。作品のバリエーションもさまざまで、海外ミュージカルから幕末時代劇、アニメやゲームを原作とした舞台まで生まれています。こうして繰り出される新作がファンを“飽きさせない仕組み”を作っているのかもしれません。

※レビュー・・・歌と踊りに時事的風刺劇を組み合わせたショー。

100年を超えて刻まれる、愛と誇り

「三ッ矢直生さん」の画像

宝塚歌劇団を退団後、東京藝術大学声楽科で学ぶ。自身の音楽活動と共に、同劇団の音楽講師として現役のタカラヅカスターたちの指導にあたる三ッ矢直生さん。

宝塚歌劇団「花組」の男役スターとして数々の舞台で活躍した三ッ矢直生さん。中学卒業と同時に首席で入学した宝塚音楽学校から退団までの日々を、タカラヅカの魅力を踏まえて振り返っていただきました。

「タカラヅカの魅力の一つは、隅々まで統一された美にあると思います。スポットライトが当たっていても、いなくても、どこから見てもほころび一つないよう全員が最善を尽くします。皆で一つの目標に向かうひたむきなエネルギーがあるのです。毎日が多忙で、課題も山積みでしたが、どんな困難があっても私たちは舞台が大好きで、宝塚歌劇団の一員であることに誇りを持って日々の公演に挑んでいました」。

現在、宝塚音楽学校で教える立場になった三ッ矢さん。生徒時代は、その厳しさにくじけそうになったことも。「それはもう、厳しいです(笑)。でも今思えば、先生や先輩のご指導も、大きな愛だったんだな、と。愛情がなければ本気で叱れないですものね。技術的なことだけでなく、品格を備え、礼節をわきまえた一人の人間として育ててくださろうと・・・。感謝しています」。

小林一三は駆け引きの多いビジネスの世界に身を置きながら、少女歌劇の無垢(むく)な清らかさに癒され、生涯タカラヅカの運営に心を砕いたそうです。彼がたびたび口にした「清く 正しく 美しく」はそのままタカラヅカの理念となり、作品や、タカラジェンヌの立ち居振る舞いの指針となっています。人々の心をつかんでいるのは、キラキラとした虚飾の世界ではなく、純粋に歌や踊りを愛するタカラジェンヌたちの姿勢や真摯(しんし)に取り組む姿なのでしょう。

100年を超えてタカラジェンヌに刻まれてきた愛と誇り。それらが見事に融合したタカラヅカは、日本が誇る舞台芸術といえるでしょう。

「GLORY OF LOVE」のCDジャケット写真
今月の1枚

宝塚歌劇団退団後、東京藝術大学声楽科に学んだ三矢直生(現在は三ッ矢直生)が、『エリザベート』や『オズの魔法使い』などの舞台でタカラヅカ時代から歌い続けてきた得意のミュージカル・ナンバーのほか、世界の名歌を歌い上げるすてきな1枚をお楽しみください。
「GLORY OF LOVE」三矢直生(ヴォーカル)

ウエルネスライフマガジン 2019年10月号掲載分

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