クラシックトリビア

「クラシック音楽で眠りを満喫」のイメージ写真

眠れぬ夜にさようなら 「クラシック音楽で眠りを満喫」

「睡眠の日」をご存じですか? 国民の健康増進と“生活の質”向上を目的に、快適な眠りについて考える日として春と秋に制定されており、毎年3月18日は「春の睡眠の日」です。人生の3分の1の時間を費やすともいわれる睡眠ですが、実に日本人の5人に1人、高齢者では約3人に1人が睡眠に何らかの問題を抱えているという調査結果があります(厚生労働省ホームページより)。こうした睡眠障害は免疫力や新陳代謝を低下させ、メタボリック症候群やうつ病、認知症などの原因となる可能性がありますので、心当たりのある方は要注意。この機会に、よい眠りとクラシック音楽の関係について押さえておきましょう。

眠っているつもりでも、日中眠くなってしまうとしたら・・・

「不眠症」のイメージ画像

毎晩一定時間眠っているのに日中眠くなってしまうとしたら・・・もしかしたら、不眠症かもしれません。

「眠りたくても眠れない」という経験、みなさんも一度はお持ちでしょう。しかし、それが1カ月以上にわたって続き、日中の倦怠(けんたい)感や意欲低下、めまいや食欲減退など不調を感じ始めたら、「不眠症」かもしれません。不眠症は、寝つきが悪い「入眠障害」、夜中に何度も目が覚めてしまう「中途覚醒」、一定時間眠っていても「翌朝疲れが取れない・休養できていない」と感じる「熟眠障害」などがあり、睡眠の“時間”だけではなく“質”も関わってきます。

そもそも十分な睡眠時間というのは、人それぞれで違うということが分かっています。遺伝的要素が大きく関係し、足のサイズや髪の色がほかの人と違うように、3時間寝れば平気という人もいれば10時間以上眠らなければ日中活動できないという人もいるそうです。総務省統計局の調査(2016年)によると日本人の平均睡眠時間は約7時間40分だそうですが、これだけを見て「自分は大丈夫」というわけにはいかないようです。

よい眠りのための曲選びとは

「「亡き王女のためのパヴァーヌ」(ピアノバージョン)」の画像

「亡き王女のためのパヴァーヌ」(ピアノバージョン)の冒頭部分にある作曲者ラヴェルの演奏指示は、「かなり柔らかく、幅広い音色で」。

「クラシックコンサートへ行って、ぐっすり寝てしまった!」という話をよく聞きますが、クラシック音楽には本当に安眠・快眠をもたらす力があるのでしょうか?

睡眠の“質”に対する音楽の影響を調査するため、ある実験が行われました。不眠に悩む若者94名を、就寝前に45分間「クラシック音楽を聴くグループ」、「オーディオブック(音声による書籍の朗読)を聴くグループ」、および「何も聴かないグループ」の3つに分け、それぞれ3週間寝起きしてもらいました。その結果、クラシック音楽を聴いてから眠りについたグループではなんと86%の人の睡眠の質が改善、抑うつ症状が軽減したという報告があります(Music improves sleep quality in students『Journal of Advanced Nursing』より)。

ただし、すべてのクラシック曲がよい眠りをもたらしてくれるわけではありません。ゆったりとしたテンポで音の数が少なく、柔らかなメロディーラインのものがお勧めです。例えば、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」(上図参照)。スローで優雅な調べが安眠を誘うのでしょうか、数々の“眠りを誘うCD”などにも採用されています。ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」などは“昼寝のまどろみ”がテーマになっているだけに、気だるいフルートの響きが夢の中へと誘ってくれるでしょう。一方、ヨハン・シュトラウス1世作曲「ラデツキー行進曲」のようなテンポが速く高揚感を覚えるような曲や、歌詞の入ったものは、思考や感情を刺激するため避けた方がよいでしょう。

今も昔も、不眠に悩む人々へ

「月明かり」のイメージ画像

電灯もなく、夜は月明かりが頼りだった18世紀の時代にも、不眠に悩まされていた人々がいたようです。

不眠の悩みは、現代だけの問題ではなかったようです。1741年に出版されたJ.S.バッハの「アリアと種々の変奏」は、ある不眠症の伯爵のために作られた曲だとか。眠れぬ夜には、当時バッハが音楽の手ほどきをしていた14歳のチェンバロ奏者・ゴルトベルク少年が、伯爵のためにこの曲を奏でたことから「ゴルトベルク変奏曲」という別称で知られています。変奏曲とは、最初にメロディー(主題)が流れ、その後そのメロディーがさまざまに変化しながら繰り返し現れる構成で、「ゴルトベルク変奏曲」のゆったりとした主題をずっと聴いていると・・・確かにまぶたが重くなってくるようです。

19世紀までのクラシックコンサートでは、ペットを同伴したり飲食したり、おしゃべりも自由、もちろんうたた寝する人もいました。そして現代でも、存分にリラックスしてもらうためリクライニング・シートが設えてあるコンサートホールがあります。思いきり身体を伸ばして、生演奏を聴きながらウトウト・・・最高にぜいたくな時間ですね。ただし、周りの人から「シーッ」とされないように、いびきにはご注意を。

「「J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV 988」植山けい(チェンバロ)」のCDジャケット写真
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不眠症に悩むある伯爵のためにバッハが作曲したといわれる「ゴルトベルク変奏曲」は、眠りにまつわる作品の中でも名高い作品でしょう。最近はピアノでの演奏も増えていますが、バッハの時代のオリジナル楽器(チェンバロ)で独特の味わいを楽しむのもよいでしょう。
「J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV 988」植山けい(チェンバロ)

ウエルネスライフマガジン 2020年3月号掲載分

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