情熱的な指揮姿から“炎のマエストロ”と呼ばれ、80歳を迎えた今も現役でオーケストラを率いる世界的指揮者、小林研一郎さん。趣味の将棋では師匠の棋譜を暗記し、40代で夢中になったゴルフでは、仲間のスコアやプレーの詳細まで覚えてしまう記憶力の持ち主。なぜそんなに記憶力がよいのか、その能力をどのように音楽活動にいかしているのか、小林さんにお聞きました。
鬼気迫る指揮姿は作曲家の魂が降臨したかのよう。サントリーホールでの舞台は指揮者最多の417回を数える(2020年3月現在)。
「記憶力が伸びたのは、実は将棋のおかげなんです。学生時代に下宿先でブームになって、強い相手だと50手先まで読んだりする。それを続けていたら、大抵のことは覚えるのが苦でなくなりました」。そうした記憶力は、指揮の仕事でも役立っていますか? 「指揮の最中、一瞬でも楽譜に目を落とすと集中力が途切れてしまうことがあるので、コンチェルト(協奏曲)以外は必ず楽譜を暗譜してリハーサルに臨みます。演奏中もオーケストラの一人一人と常にアイコンタクトが取れる状態をキープすることは、僕を信頼してくれている楽団員の皆さんへの敬意でもあるのです」。そうして信頼関係が築かれるからこそ、極上のハーモニーが生まれるのでしょうね。
小林さんのハードな活動を健康面からサポートする奥さまと。コンサート前には手作りのおにぎりとおみそ汁が欠かせないのだとか。
しかし、オーケストラすべての楽器・演奏箇所を覚えるのはさすがに大変なのでは・・・? 「まさに寝てもさめても勉強しなくては、シンフォニー(交響曲)などは覚えられません。日夜楽譜と向き合っているので、妻からは『(私は)受験生の母親のよう』と言われています(笑)」。
覚えるコツのようなものは、あるのでしょうか? 「無理やり覚えようと思っても、覚えられるものではありません。音楽も将棋もゴルフも、好きだから覚えられる。“好き”というエネルギーが、記憶する力になっているんじゃないかな」。
なにかと忙しい現代、好きなことに没頭する時間や、親しい人と楽しむ時間、取れていますか? 記憶力を高めるヒントは、意外と身近なところにあるものかもしれませんね。