クラシックトリビア

「春ストレスを音楽で乗り切ろう」のイメージ写真

ゆらぎの季節にご用心! 「春ストレスを音楽で乗り切ろう」

“寒さの中にも、陽の光の温かさを感じる3月。冬に葉を落とした木々が再び芽吹き始めるこの時期を「木の芽時(このめどき)」といいますが、自然界の変化とともに人間の体も変調を起こしやすい時なのだそうです。新年度を控え心理的ストレスもためやすい季節、「病気というほどではないけれど・・・」という、春先の軽い倦怠感を覚えたら、音楽を取り入れて気分をリフレッシュしてみませんか?

「気休め」ではない、音楽の効能

「“音環境コンサルタント”齋藤寛さん」の画像

飲食店やオフィスへのBGMのアドバイスや、個人向けに音楽心理カウンセリングなども行っている“音環境コンサルタント”齋藤寛さん。

音楽を聴いて心が軽くなった、やる気が出たという経験は、多くの方にあるでしょう。最近では、音楽を聴くことで“快楽ホルモン”と呼ばれるドーパミンやβ(ベータ)エンドルフィンが脳内に分泌され、“ストレスホルモン”にあたるコルチゾールの体内分泌量が減少したという研究結果もあり、音楽がストレス解消に役立つことが生理学的にも証明されつつあります。

そこで今回は、音や音楽が人の感情に及ぼす影響について研究されている“音環境コンサルタント”齋藤寛さんに、人と音・音楽のよい関係作りについてお話しいただきました。

「考えてみると、自然界に“無音の空間”はありませんよね。野外で暮らしていた時代には、人間は目よりもむしろ耳、音からさまざまな情報を得て危険を察知・回避しながら生活していました。現代のように、壁に仕切られ音を遮断した空間にいて、突然電話が鳴ったりするとドキッとしますよね? そうした状況も、案外ストレスになるものなんです」。人間は本来、常に聴覚を研ぎ澄ませているものなんですね。

次の章では、音楽を効果的に日常に取り入れる方法について語っていただきます。

春のモヤモヤ、オンライン疲れも音楽でリフレッシュ

「音楽は個人の記憶や体験と強く結び付くので、昔よく聴いた曲や、普段聴き慣れた音楽を『心地よい』と感じるものです。脳によいといわれる音楽なども、『退屈だな』と思って聴いていてはポジティブな感情は生まれません。ただ、常に同じ音楽を聴いていると感情が一定のところにとどまってしまいます。春先のリフレッシュに音楽を取り入れるならば、あえて新しいジャンルの音楽に挑戦するとよいでしょう」。“どんな曲”を聴くかよりも、“聴き方”にメリハリをつけると自然に感情の幅が広がるそうです。

2020年春以降、オンラインでのコミュニケーションが増えています。そこで、パソコンを介しての会話を盛り上げる音楽の活用法についてもお伺いしました。「カフェにいるときを想像すると、大体BGMがかかっていますよね。オンラインでも、小さく音楽をかけながらの方が、リラックスして会話が生まれやすいと思います」。

「「会話が生まれやすい」 BGMの特徴」の画像

最後に、春に聴くお薦めの曲を聞いてみました。「ドビュッシーのピアノ曲『ヒースの荒野』(本文下「今月の1枚」参照)はいかがでしょう。この曲を聴きながら、険しい岩山や谷に咲く可憐な花ヒースが群生するさまを思い浮かべると、さまざまな思いが巡り始め、やがて本来の自分に戻っていくような気がするのです。私にとって、春は“再生”のイメージなのでしょう」。

作曲家たちの、さまざまな「春」

「春の光の幸福感」のイメージ画像

すでに耳が聞こえづらくなっていたベートーヴェンが30歳の時に完成させた「バイオリン・ソナタ第5番」は、春の光の幸福感に満ちあふれていた。

「春」をキーワードに、もう少し曲を探してみましょう。ベートーヴェンの「バイオリン・ソナタ第5番」は別称“スプリング・ソナタ”とも呼ばれ、第1楽章の明るいメロディーは暖かな春の光を連想させます。しかしこの曲を書き上げた翌年、ベートーヴェンは日々悪化する難聴に苦しみ、遺書をしたためるまでに(後に見事に復活するのですが)。スプリング・ソナタは、かすかな音を頼りに音楽の幸福感に浸った儚(はかな)い春の夢、だったのかもしれません。

もう1曲は、幻想的な春の宵の美しさとともに、恋の季節としての「春」を描いたシューマンの「春の夜(宵)」。夜の森の住人たちが「彼女はあなたのもの」と優しくささやく詩に、繊細なピアノが重なります。作品が発表された1840年は、シューマンが長年愛を紡いできたクララと念願かなって結婚した年。彼女を手に入れた喜びが、こんなにも美しい曲を書かせたのでしょう。19世紀の婦人たちをとりこにした愛のカリスマ・リストが編曲したバージョンもあり、切なく連打するピアノの調べは懐かしい恋の思い出を呼び起こす・・・かもしれません。ロマンチックな春の夜にお楽しみいただきたい1曲です。

【参考文献】
『心を動かす音の心理学~行動を支配する音楽の力~』(ヤマハミュージックメディア)

「「ドビュッシー:前奏曲集第2巻、白と黒で」マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ)」のCDジャケット写真
今月の1枚

印象主義を代表する作曲家ドビュッシーの代表作「前奏曲集」。第2巻には、「ヒースの荒野」をはじめとした宝石のように麗しい曲の数々が収められています。現代最高の巨匠のひとりポリーニの美しい音色でお楽しみください。
「ドビュッシー:前奏曲集第2巻、白と黒で」マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ)

ウエルネスライフマガジン 2021年3月号掲載分

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