作曲家の想いをオーケストラから引き出し、聴衆に伝えるのが指揮者の役目。
その昔、「総理大臣と指揮者は男子たるもの一度はやってみたい仕事のひとつ」などと言われていた指揮者。確かに、指揮棒1本でオーケストラを思い通りにコントロールする姿は格好良さの極み。ある種権力の象徴のように見えるのかもしれませんね。
そもそも指揮者はいったい何をしているのでしょう。まずはその歴史を紐解いてみたいと思います。バッハやヴィヴァルディが活躍していたバロック時代(17世紀初頭から18世紀半ば)には指揮者は存在せず、通奏低音を演奏するチェンバロ奏者や、バイオリンの首席奏者が全体をまとめる役割を果たしていたようです。
一説によればバイオリニストの弓が指揮棒に進化したとも言われています。変わったところでは、フランスの作曲家リュリが背丈ほどの金属製の杖で床を叩いて指揮をしていましたが、誤って自分の足を突いてしまい、その傷がもとで命を落としたという逸話が残っています。その後、作曲家が自らの作品を指揮していた時代を経て現代のような専門職としての指揮者の時代に移行した背景には、オーケストラのレパートリー拡大と聴衆の存在が欠かせません。作曲家たちの想いをオーケストラから引き出して聴衆に伝えること、それが指揮者に求められる役割と存在意義なのです。