人物・作品・仕事

調律師

職人のこだわり × 音楽家の耳 「調律師」

人々を感動させる素晴らしい音楽を生み出すには、その基本となる“音”がきちんと合っていることも大切です。バイオリンやフルートなど多くの楽器は奏者自身が音の高さを調整しますが、ピアノの音を合わせるのはピアノ調律師。そして単なる楽器の音合わせだけでなく、奏者とともに音をつくり、音楽を生み出す源に関わる仕事…今回は、ピアノ調律師の仕事の魅力に迫ってみましょう。

ピアノの内部は、私たちの肌と同じように湿度に敏感

ピアノの内部は湿度に敏感。家庭のピアノは年に一度程度の調律がのぞましいそうです。

ピアノの内部は湿度に敏感。家庭のピアノは年に一度程度の調律がのぞましいそうです。

自動車に1年点検が必要なように、家庭のピアノも1年に一度程度の調律をした方が良いといわれています。それはなぜでしょう? ピアノの中をのぞいてみるとよく分かります。木で囲まれたピアノの内部には、鋼でできた弦がびっしり。鍵盤をたたくと、フェルトでできたハンマーヘッドが動いて弦を打ち、音が出ます。

木、鋼、フェルトでできているピアノの内部は私たちの肌と同じように湿度に敏感で、ムシムシした夏や乾燥する冬には、木枠も弦も伸縮します。また、演奏するたびにハンマーヘッドのフェルトは弦で圧縮され、すり減っていきます。月日の経過とともに少しずつ音がずれて弾きづらくなったピアノを、調律師は健康な状態に戻していくのです。

ピアニストと調律師の関係は、レーサーと整備士のようなもの!?

「ショパン国際ピアノコンクール」が開催されるポーランドの首都ワルシャワに建つショパン像。

「ショパン国際ピアノコンクール」が開催されるポーランドの首都ワルシャワに建つショパン像。

ピアニストにとっては、一度きりの演奏がその後の人生を左右することも少なくありません。例えば大事なコンクールで勝利するためには、今日、その演奏に合った音をつくらなければならず、そんな時はピアニストも調律師も命がけ。カーレースに例えると、車に命を預けて勝負するレーサーと、それを見守る整備士の関係に似ているかもしれませんね。

世界的な巨匠が過去の入賞者に名を連ねる「ショパン国際ピアノコンクール」では、演奏者は4社それぞれのメーカーの、それぞれの調律師が調律した4台から予選・本選の演奏で使用するピアノを選びます。自分が調律したピアノが選ばれ、さらにその奏者が優勝すれば、調律師にとっても大きな“勲章”に。このコンクールの裏で繰り広げられる調律師たちの闘いは、テレビのドキュメンタリー番組にもなりました。

調律師にインタビュー! 調律している時に考えていることは?

依頼主のピアノの調律のため、長年岡山の自宅と東京を行き来している調律師の安藤俊幸さん。

依頼主のピアノの調律のため、長年岡山の自宅と東京を行き来している調律師の安藤俊幸さん。

「重厚な音、軽やかな音、静かな音、明るい音…自分が『これだ』と思う調律ができて、その音が演奏者に気に入られた時が、一番うれしい瞬間ですね」。この道30年以上のピアノ調律師、安藤俊幸さんは言います。
オクターブ(ドレミファソラシドの8音階)の音を合わせる数値的な基準はありますが、調律師はみんな自分なりの音質を持っています。調律する時はいつも、「ピアノさん、聞いて!」と心の中で願いながらチューニングハンマーを握り、自分の音に近づけていくそうです。そうした地道な作業を1回の調律で2時間以上、回数にして200回以上繰り返します。

「音を聴くというよりも、音のうねりを捉え、イメージをふくらませて音を合わせます。職人的な作業のようですが、音楽家のような耳や感性も必要なのです」。安藤さんは、調律を任されたピアニストから「いいね」と言われる音が出せるようになるまで、なんと15年もかかったそうです。

ピアノの健康をよみがえらせる調律師は、ピアニストの頼れる存在でもありました。職人としての技術はもちろん、音へのこだわりや忍耐強さ、そして音に対する芸術的な感性も必要とされる仕事なんですね。

「チョ・ソンジン 感動のショパン・コンクール・ライヴ2015」/チョ・ソンジン(ピアノ)
今月の1枚

5年に一度ポーランドのワルシャワで開催される「ショパン国際ピアノコンクール」は、ピアノコンクールの最高峰。ピアニストと調律師が一体となって頂点を目指す姿は感動的です。2015年の覇者チョ・ソンジンの熱演をご堪能あれ。
「チョ・ソンジン 感動のショパン・コンクール・ライヴ2015」/チョ・ソンジン(ピアノ)

ウエルネスライフマガジン 2016年9月号掲載分

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