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オルガンのイメージ写真

詩人の心を持つメカニック 「オルガン製作者」

たった一台でオーケストラのような多彩な響きをつむぎ出し「楽器の王様」と呼ばれるパイプオルガン(以下、オルガン)については、以前このコラムでもご紹介しましたね。ほかの楽器と同じく、巨大なオルガンも時には点検や整備が必要になります。2017年9月リニューアルオープンしたサントリーホール(大ホール)の顔ともいうべきオルガンも、30年の時を経てオーバーホール(総点検。人間でいうところの“人間ドック”?)を終え、美しい音色に磨きをかけました。今回はその作業のため来日したオルガン製作者の方にお話を伺いしながら、オルガンのメンテナンスという未知の仕事の奥深さに迫ってみましょう。

数千のパーツで構成された躯体は、精巧なマシンのよう

オルガン内部のパイプの写真

約6,000本のパイプと、それを鳴らすための複雑なメカニズムがオルガン内部に収められている。

「オーバーホールは、楽器を調べて状態を分析することから始まります。そのために、まずはオルガンの風圧、ピッチ(音の高さ)を測定します」。
  オーストリアの名門、リーガー社で大規模なオルガン製作や修復に関わっているグウェンニン・ラリドンさん。今回のオルガンのメンテナンスを行うチームの一員としてはじめてサントリーホールを訪れたラリドンさんは、ホールと一体化したオルガンの壮大な外観と、大規模でありながら精巧な躯体に魅了されたそうです。しかし、世界最大級といわれるサントリーホールのオルガン、パイプの数だけでも5,898本。全てのパイプを清掃するだけで、なんと約4週間もかかったのだとか!

パイプの清掃と並行してパイプに風を送る“ふいご”の点検・調整作業、そして様々な部品(その数合わせて数千パーツ!)を点検・調整し、交換が必要な部品を取り換えます。その後コンソール(演奏台)と鍵盤を解体、組み直すことによって、メカニズム全体のバランスを整えていくそうです。

毎日の小さな驚きや感動が、よいオルガン製作者をつくる

フランス生まれのラリドンさんの写真

フランス生まれのラリドンさん。
オルガンの機械的な設計に興味を持ったことや、歴史的記念物の復元に関われる点などが、オルガン製作者を目指した理由だとか。

作業の流れを伺うと、細かい作業を根気強く行う集中力や手先の器用さが必要とされる仕事なのかと思いましたが、「それはもちろんですが」と前置きされた後、オルガン製作者に求められる能力や素養について教えてくださいました。

特徴的なのは、空間認識能力。巨大なオルガンの形状や構造を瞬時に、立体的に捉える能力が必須なのだそうです。さらに…「オルガン製作者は、芸術面と技術面の双方からのアプローチが必要な、希少な職業だと思います。音楽の美しさと高度な技術を融合させる、幅広い知識や柔軟な発想が何よりも重要です。そのために、仕事や世の中に対して常にオープンマインドで向き合い、新鮮な驚きや感動に満ちた日々を送れるよう心がけています」、とのことでした。

チームで極上の音楽を目指す、刺激的な仕事

サントリーホールのオルガンの写真

オーバーホール作業に関わったたくさんの人々の想いをのせて、サントリーホールのオルガンは、これからも美しい音色を響かせてくれるでしょう。

最後に、今回のオーバーホールのゴールと、オルガン製作や修復の魅力について教えていただきました。
  「今回のオーバーホールの目標は、将来にわたってこのオルガンが正確で美しい音色を響かせてくれることです。そして、この先も問題が起こらないよう対策を講じておくことも必要となってきます。オルガン製作の仕事には、常にサプライズ(驚き)とともに想像を超えた仕事が待ち受けています。今回も予期せぬ展開に直面しながら、仲間やヤマハのスタッフの方々、サントリーホールさんもひとつのチームとなって、皆で極上の音楽を追求し、非常に刺激的な経験をしました」。
  オルガン製作は、途方もなく繊細な作業と俯瞰する力、そしてすべてを柔軟に受け入れる職人たちの懐の深さに加え、その作業に関わるたくさんの人々の想いをのせて行われていたんですね。

新しく生まれ変わったオルガンの音色を体感しに、サントリーホールに出かけてみてはいかがでしょうか?

【参考文献】
『音楽大事典1巻』(平凡社)

J.S.バッハ:「トッカータとフーガ〜バッハ:オルガン作品集」のCDジャケット
今月の1枚

30年前のサントリーホール・オープニングシリーズにも登場したフランスの名オルガニスト、マリー=クレール・アランによるバッハ。壮大な「トッカータとフーガ」から、味わい深い「コラール」など、オルガンの魅力が満載です。
J.S.バッハ:「トッカータとフーガ〜バッハ:オルガン作品集」
/マリー=クレール・アラン(オルガン)

ウエルネスライフマガジン 2017年9月号掲載分

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