皇帝ナポレオン誕生の瞬間、ベートーヴェンのナポレオンへの心酔は砕け散ったのか・・・?
若いころは宮廷音楽家として権力の近くで仕えていたベートーヴェンですが、いつしか権力と距離を置くようになります。多くの音楽家がパトロンである王室や貴族のための音楽を作っていた時代、ベートーヴェンはそうしたしがらみから音楽を解放するかのように、自らの意志で作りたい曲を作る、いわば「音楽の自由を勝ち取るための革命」を先導しました。
この姿勢は政治思想にも貫かれ、フランス革命勃発後のヨーロッパで政府の弾圧が強まる中でも、声高に体制批判を行いました。それでも投獄を免れたのは、世俗を超えたベートーヴェンの“聖なる音楽”が権力者をも魅了し、黙らせる力を持っていたからではないでしょうか。
ベートーヴェンの権力への抵抗を表す有名なエピソードがあります。動乱の世に突如現れた戦術の天才・ナポレオンに、ベートーヴェンは革命の体現者の姿を重ねていました。それゆえナポレオンをたたえ、交響曲第3番「ボナパルト」を作曲(後に「エロイカ〈英雄〉」と改名)。その曲をささげようとしたまさにそのとき、ナポレオンが(権力の象徴である)皇帝に即位するというニュースが届きます。一説では、それを聞いたベートーヴェンは怒りのあまり楽譜の表紙を引き裂き、床に投げつけたと伝えられています。