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「クララ・シューマン」のイメージ写真

逆境を乗り越え、愛に生きた 「クララ・シューマン」

クラシック音楽の世界で「シューマン」といって思い起こされるのは、ドイツ・ロマン派を代表する男性作曲家、ロベルト・シューマン(1810~1856年)ではないでしょうか。その功績の陰で、第一級のピアニストとして活躍した妻クララの存在はあまり知られていません。今回は、女性の社会進出が進んでいなかった19世紀のヨーロッパにおいて、自らの生き方を貫いた偉大な女性音楽家(演奏家)、クララ・シューマン(1819~1896年)の生涯にスポットを当ててみたいと思います。

封建社会に響き渡った少女の演奏

「1830年ごろのヨーロッパ」の画像

少女時代のクララが偉大なピアニストの一人として活躍していた1830年ごろのヨーロッパ。

クララが生まれた19世紀初めのライプツィヒ(下図参照)は、ウィーンやパリ、ロンドンと並ぶ当時のヨーロッパを代表する音楽の都。音楽家でピアノ教師だった父親ヴィークに5歳の時から英才教育を受けたクララは、6歳で街一番のピアニストと音楽会で共演するほどの才能を見せていました。一世代前に活躍したモーツァルトが幼いころから父親に連れられ、演奏旅行先で貴族や有力者の目に留まり運を開いたように、ヴィークも、ピアノ演奏を通じてクララを、また自らを上流階級に押し上げようと野心を燃やしていました。

しかし、まだ封建的な空気の残るヨーロッパで女性の才能が評価されることはまれで、ましてや幼い少女が演奏することに対する人々の反応はむしろ冷ややか。それでも、クララの演奏は確実に聴衆の心をつかみ、文豪ゲーテが賛辞を贈ったことからもその評判は高まりました。以降、生涯にわたりピアニストとして演奏旅行を続け、ヨーロッパの聴衆を魅了することになったのです。

創造性と愛への目覚め。父との確執

「シェーネフェルト記念教会」の画像

結婚の許可を勝ち取った後、シューマン夫妻が挙式したシェーネフェルト記念教会(ドイツ)。

クララの未来の夫となるロベルト・シューマンとの出会いは、ロベルト18歳、クララ8歳の時でした。父ヴィークの弟子となったロベルトは、ドイツ文学やシェークスピアを愛するやや現実離れしたところのある青年で、音楽にも即興性やロマンチシズムを求めていました。一方、「完璧なテクニックと規律正しい演奏によってのみ芸術の本質が証明される」という、およそ対極の音楽観を持つヴィークのもとで育ったクララは、ロベルトの夢想に満ちた世界にはじめは戸惑いました。しかし長く一緒に過ごすうち、クララのなかにあった創造性が目覚め、いつしかロベルトとクララは魂の深い部分で結ばれるようになったのです。

クララの音楽家としての成功に自らの半生をつぎ込んできたヴィークが、上流階級でもなく、夢見がちでまだ将来の見えない青年ロベルトとの恋愛を快く思うはずがありません。父親に交際を禁止され、結婚を妨害された二人は長い格闘の末、ついには裁判まで起こし結婚許可証を手に入れました。クララ20歳の時でした。

最愛の夫の遺志を継ぎ、演奏家として活躍

父ヴィークの猛反対を押し切り結ばれた二人は、音楽と愛に満ちた生活をスタートさせ、8人の子どもにも恵まれましたが・・・結婚生活という現実と折り合いをつけながら創作活動を続けるには、ロベルトは繊細すぎました。徐々に神経を衰弱させ、クララは37歳で未亡人に。その時大きな支えとなったのが、ロベルトが生前「新しき天才」として高く評価したブラームスです。彼の音楽はロベルトの、そしてベートーヴェン以降に切り開かれたドイツ・ロマン派の特徴を引き継いでいました。しかし、より新しい思想やスタイル(音楽と詩を融合した交響詩や、よりテーマ性のある曲作りなど)を打ち出したリストやベルリオーズといった音楽家たちが台頭し、ロベルトやブラームスの音楽を攻撃しはじめたのです。

怒りに奮い立ったクララは、愛するロベルトとその後継者たるブラームスの音楽に貫かれた精神と彼らの作品を世に広めることを使命とし、より精力的に演奏旅行を行いました。中年以降はリウマチに悩まされながら、晩年はベルリン音楽院の教授という好待遇をも辞退し、生涯、演奏家としての人生を全うしたのでした。

「シューマン派とリスト派の対立」のイメージ図

ロベルトとブラームスに共通する繊細な感覚や霊的なひらめきを「音楽的価値とは認めない」リスト派からの攻撃に対し、クララは演奏することで立ち向かった。

封建的なヨーロッパ社会、困難な結婚、そして早すぎる夫との別れ・・・。どんな逆境にもくじけず、むしろ逆境のなかで、なお輝きを増したクララの生涯。自らの力で人生を切り開いた彼女のパワーと勇敢さを、その演奏からも感じてみてください。

【参考文献】
『クララ・シューマン~光にみちた調べ~』(河出書房新社)
『すぐわかる!4コマ西洋音楽史3~ロマン派中期~近現代~』(ヤマハミュージックメディア)

「ロベルト&クララ・シューマン歌曲集」のCDジャケット
今月の1枚

ロベルトとその妻クララの二人のシューマンによる歌曲作品を交互に並べた、二人の愛の結晶とでもいうべきアルバムです。ロベルトが婚約記念にクララに捧げた「献呈」をはじめ、様々な愛の形が美しいメロディによって楽しめます。
「ロベルト&クララ・シューマン歌曲集」

ウエルネスライフマガジン 2019年2月号掲載分

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