パトロンと音楽家という関係で14年間文通を重ねたメック夫人(上図)とチャイコフスキーだが、ついに一度も会うことはなかったといわれている。
長年チャイコフスキーの経済的・精神的支えとなった大富豪の未亡人・メック夫人が語ったところによると、チャイコフスキーの音楽を聴くと「心がすっと軽くなり、自然と涙があふれてくる」のだそう。
音楽の専門的なことは分からなくても、チャイコフスキーが人々の心に寄り添い、新たな活力をもたらそうと密やかな努力を重ねていたことが想像できます。そうしたつくり手の意図のカケラを感じ取るだけでも、また違った感動が生まれてくるのではないでしょうか。
ロシアのある声楽家は、「ありきたりな感傷に寄りかかった歌い方では、チャイコフスキーの表面的な美しさしか伝わらない」と語り、また、「チャイコフスキー作品の真の価値を理解するには、年齢を重ねる必要がある」とも言及しています。
子どものころに聴いた『白鳥の湖』はキラキラと美しい音楽だったけれど、人生の経験を積んだ今こそ、チャイコフスキーを聴き直してみる価値があるかもしれません。華麗な音楽の向こうにある、これまで聴こえてこなかったチャイコフスキーの悲哀や憂いが発見できるかもしれません。