目次
1.ヨウ素とは
ヨウ素は生体に必要な微量ミネラルの一つで、海洋中に多く存在します。海藻や魚介類に多く含まれている栄養素です。体内では、ヨウ素の70~80%が甲状腺に存在し、成長やエネルギー代謝に重要な役割を果たす甲状腺ホルモンの原料となります。
微量ミネラルの一つであるヨウ素は、発育や代謝を司る甲状腺ホルモンの原料です。日本人の伝統的な食事のなかにも豊富に含まれており、身近な栄養素の一つといえるでしょう。
今回は、ヨウ素の働きや不足すると起こりうる症状、推奨される一日の摂取量など、私たちの健康とヨウ素の関係について解説します。
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ヨウ素は生体に必要な微量ミネラルの一つで、海洋中に多く存在します。海藻や魚介類に多く含まれている栄養素です。体内では、ヨウ素の70~80%が甲状腺に存在し、成長やエネルギー代謝に重要な役割を果たす甲状腺ホルモンの原料となります。
ヨウ素は甲状腺ホルモンの構成成分です。甲状腺ホルモンは、脳の下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)の働きによって甲状腺から分泌され、血液の流れにのってさまざまな臓器に運ばれ、体内の新陳代謝の調節を行ないます。
また、甲状腺ホルモンは生殖や成長にとっても、非常に重要な役割を果たしているものです。胎児の脳・末梢組織・骨格などの発育など、体内のさまざまな反応に関与しています。
ヨウ素は海産物に多く含まれるため、古くからヨウ素に富んだ海産物を伝統的に食している日本人では、ヨウ素不足が問題になった例はありません。ただし、山岳地帯や内陸国などでは不足しやすいミネラルと言われています。
ヨウ素が不足すると甲状腺ホルモンの生成が低下するため、脳は甲状腺刺激ホルモン(TSH)を分泌して、甲状腺の発達を促します。しかし、これが続くと甲状腺が過剰に肥大します。
ヨウ素不足により甲状腺機能が低下すると代謝が低下するため、むくみ・疲労感・便秘・体重増加・記憶力の低下など、さまざまな症状が現れます。重症の場合には、意識障害を引き起こすこともあるので注意が必要です。
ヨウ素を日常的に多量摂取すると、甲状腺の機能低下などが生じるおそれがあるため、一日の摂取推奨量が決められています。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」で設定されている、各性別・年齢別におけるヨウ素の一日摂取基準は以下のとおりです。
【ヨウ素の食事摂取基準 (μg/日)】
性別 | 男性 | 女性 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
年齢等 | 推奨量 | 目安量 | 上限量 | 推奨量 | 目安量 | 上限量 |
0~5 (月) | ─ | 100 | 250 | ─ | 100 | 250 |
6~11 (月) | ─ | 130 | 250 | ─ | 130 | 250 |
1~2 (歳) | 50 | ─ | 300 | 50 | ─ | 300 |
3~5 (歳) | 60 | ─ | 400 | 60 | ─ | 400 |
6~7 (歳) | 75 | ─ | 550 | 75 | ─ | 550 |
8~9 (歳) | 90 | ─ | 700 | 90 | ─ | 700 |
10~11 (歳) | 110 | ─ | 900 | 110 | ─ | 900 |
12~14 (歳) | 140 | ─ | 2,000 | 140 | ─ | 2,000 |
15~17 (歳) | 140 | ─ | 3,000 | 140 | ─ | 3,000 |
18~29 (歳) | 130 | ─ | 3,000 | 130 | ─ | 3,000 |
30~49 (歳) | 130 | ─ | 3,000 | 130 | ─ | 3,000 |
50~64 (歳) | 130 | ─ | 3,000 | 130 | ─ | 3,000 |
65~74 (歳) | 130 | ─ | 3,000 | 130 | ─ | 3,000 |
75以上 (歳) | 130 | ─ | 3,000 | 130 | ─ | 3,000 |
妊婦(付加量) | ─ | ─ | ─ | +110 | ─ | 2,000 |
授乳婦(付加量) | ─ | ─ | ─ | +140 | ─ | 2,000 |
※1歳未満は目安量
※推奨量:ある性・年齢階級に属する人々のほとんど(97~98%)が1日の必要量を満たすと推定される1日の摂取量
※目安量:推定平均必要量・推奨量を算定するのに十分な科学的根拠が得られない場合に、ある性・年齢階級に属する人々が、良好な栄養状態を維持するのに十分な量
※上限量:ある性・年齢階級に属するほとんどすべての人々が、過剰摂取による健康障害を起こすことのない栄養素摂取量の最大限の量
引用:厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
この基準を見ると、例えば18歳以上の成人では、男女ともにヨウ素の一日推奨量は130μg、上限量は3,000μgとなっています。
なお、妊婦や授乳婦については、それぞれ110μgと140μgの付加量が設けられています。ただし、妊娠中はヨウ素感受性が高いと考えられることや、母乳中のヨウ素濃度を極端に高くしないようにする観点から、上限量は2,000μgとされているようです。
健康な人であれば、ヨウ素を多少過剰に摂取したとしても余剰分は体内に蓄積せずに排出されます。特に日本人は、古くからヨウ素を豊富に含む海産物を食べていたため、ヨウ素の過剰摂取による影響は少ないと考えられるでしょう。
ただし、長期的な過剰摂取により健康被害が発生した例も報告されています。ヨウ素の過剰摂取により、甲状腺炎などからホルモン合成が阻害され、甲状腺機能が低下することがあります。
特に、昆布はヨウ素を多く含む食品です。昆布だしを1年間継続して過剰に摂取した例や、昆布チップを1ヵ月間食べ続けた例などで、甲状腺機能の低下が報告されています。
その他には、過剰摂取した際の症状として、筋力の低下、体重減少、頻脈などが見られることもあるようです。
ヨウ素は、以下のような食品に多く含まれています。
なお、食品中のヨウ素含量は、産地の土壌や飼料中に含まれるヨウ素量によって変動します。
食品名 | ヨウ素含有量 (100gあたりμg) |
---|---|
刻み昆布 | 230,000 |
昆布だし(煮出し) | 11,000 |
乾燥カットわかめ | 10,000 |
松前漬け | 10,000 |
(文部科学省「食品成分データベース」をもとに作成)
食品名 | ヨウ素含有量 (100gあたりμg) |
---|---|
だし巻きたまご | 450 |
しめさば | 430 |
まだら(生) | 350 |
生ハム | 180 |
(文部科学省「食品成分データベース」をもとに作成)
植物性食品だと、昆布やひじき、わかめなど、日本人の伝統的な食生活に根付いた海産物が多くあります。動物性食品だと、ヨウ素は海藻に次いで、魚類に多く含まれています。
ヨウ素は昆布などの海産物に多く含まれており、日本人にとって摂取しやすい栄養素です。食品から摂取したヨウ素の多くは甲状腺ホルモンになり、発育や成長、代謝など、体内のさまざまな反応に関与します。
そのため、ヨウ素の不足や過剰摂取によって、甲状腺機能の低下などが生じる可能性があるので気を付けましょう。
今回紹介した食事の摂取基準では、日本人の食生活の現状を考慮して一日の摂取基準が設定されています。それを踏まえたうえで、適量のヨウ素を摂取できるよう参考にするとよいでしょう。
氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。
成分
健康のためにビタミン摂取を心がける方は多いと思いますが、ビタミンB6について詳しい方は多くないでしょう。
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ブドウ糖は、ヒトや動物が生きていくうえで必要となる、重要なエネルギー源です。
成分
ヒトの消化酵素で消化できない食品中の難消化成分のことを食物繊維といいます。
成分
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