1.筋力が低下するおもな原因
全身の筋肉は、大小を合わせるとおよそ400個あります。立ち上がったり、歩いたり、姿勢を保ったりするための筋肉は、生活の質に大きく関わる大切なものです。また、筋肉はエネルギーを燃焼して体温を維持し、筋ポンプ作用によって血流を促す働きもあります。
このように、筋肉は生きていくうえで大切なものですが、加齢とともに筋肉の割合が減っていくことがわかっています。世代別・男女別の体内の筋肉の割合は以下のとおりです。
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女性 |
男性 |
20~30代 |
35%程度 |
40%程度 |
40~50代 |
30%程度 |
35%程度 |
60~70代 |
25%程度 |
30%程度 |
筋力は筋肉の断面積(筋肉量)によって左右されるため、筋力は筋肉量にほぼ比例します。
筋力・筋肉量が落ちる原因は加齢のほか、活動量の不足、病気や栄養不足が挙げられます。
2.筋力低下が引き起こすおもな症状
筋力が低下すると、生活のなかで以下のような症状が見られます。
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・つまずきやすい
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・立ち上がるときに手をつく
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・ペットボトルが開けづらくなった
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・立ちっぱなしの状態をつらく感じる
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・猫背の姿勢を楽に感じる
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・すぐに疲れてしまう
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・足がむくみやすい
これらの症状が起きる頻度が増えてきた場合は、筋力低下が進んでいる可能性を考えましょう。特につまずきは、注意力不足のせいと思い込んでいるケースがあります。本人も家族も、筋力が低下していると気付かない場合があるので、注意が必要です。
筋力低下が進行すると、歩くのが遅くなるなど日常の身体活動が下がるだけではありません。筋肉によるエネルギーの代謝効率も低下することで、糖尿病などの生活習慣病になるリスクが高まります。
3.筋力低下によるおもな疾患
筋力の低下によって、考えられる疾患があります。どういったものか見ていきましょう。
加齢にともなって筋肉の量が減っていく現象を「サルコペニア(筋虚弱症)」と呼びます。ギリシャ語でサルコ=筋肉、ペニア=減少という意味です。
若い頃には筋肉の合成・分解のバランスが保たれていますが、歳を重ねると運動量が減るだけでなく、食が細くなって十分な栄養がとれなくなります。その結果、筋肉の合成機能が低下してしまうのです。
筋力が低下すると、立ち上がりや歩くことがだんだんと億劫になり、寝たきり、閉じこもりなど高齢者の活動低下につながるおそれがあります。
4.筋力低下の予防法・対処法
歳を重ねてもイキイキと生活するためには、筋力を保つことが大切です。病気がある場合は治療が最優先ですが、同時に筋力を上げる取り組みも行なうとよいでしょう。
筋力低下を予防するためには、「運動」と「栄養」がポイントです。
4-1.バランスの良い食事
栄養不足によって起こるサルコペニアの原因には、食事量の低下や偏食、エネルギー不足が関わっています。そのため、食事は主食・主菜・副菜をバランス良く摂取しましょう。
筋肉量の維持にはタンパク質が重要です。特に、良質なタンパク質(分岐鎖アミノ酸)は体内で合成ができないため、多く含む食品を摂取することをおすすめします。例えば、分岐鎖アミノ酸は、まぐろ・かつおなどの赤身の魚や赤身の肉、卵・大豆製品・牛乳などに含まれています。
4-2.速筋を鍛える筋トレ
筋肉の線維は、その特徴から以下の2種類に分けられます。
速筋 |
・パワーが高い
・持久性が低い
・疲労しやすい
・筋力に関係する |
遅筋 |
・パワーは小さい
・持久性が高い
・疲労に対する耐性が高い
・筋持久力に関係する |
筋力を高めるためには、有酸素運動ではなく筋トレで速筋を鍛えるのが有効です。
筋トレは、以下3つのポイントを押さえて行ないましょう。
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・動作はゆっくりと行なう
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・動作を繰り返すときは力を抜かない
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・心地良い疲労感が残る程度の回数で行なう
それでは、家でも簡単にできる筋トレを3つ紹介します。
もも上げ(腸腰筋を鍛える)
椅子の背をつかんでまっすぐに立ち、片膝を高く持ち上げましょう。片膝を下ろす際も、足を床につけずに繰り返します。
ハーフスクワット(大腿四頭筋を鍛える)
両足を肩幅ほどに開いて立ち、ゆっくり膝を曲げ、膝が直角になる程度まで腰を落とします。戻す際もゆっくりと膝を伸ばして腰を持ち上げましょう。この動作を、膝が伸び切らないところで繰り返してください。
爪先立ち(下腿三頭筋を鍛える)
椅子の背をつかんでまっすぐに立ち、かかとを高く持ち上げます。かかとを下ろす際も、床につけずに繰り返しましょう。
筋力低下を予防して、活動的な毎日を楽しもう
いつまでも元気に歩いたり、いろいろなことにチャレンジしたりするためには、十分な筋肉量が大切です。また、筋力の低下は転倒や骨折、寝たきりなどにつながるおそれがあります。
栄養や運動を意識して筋力低下を予防し、アクティブな毎日を楽しみましょう。
監修者情報
氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。