1.起きるために大切なのは体内時計
そもそも起きるための体の仕組みはどのようになっているでしょうか。睡眠や起床のメカニズムには体内時計が深く関係しています。
体内時計は、人に覚醒力をもたらします。日々の特定の時間に目覚めることができるのは、覚醒力が増大するためです 。その後、就寝時間の1~2時間前にはメラトニンが分泌されるようになり、覚醒力が低下し 始めます。そこから眠気をもよおし、睡眠へつながっていきます。
この体内時計の働きによって、洞窟のような時刻がわからない環境でも、人は毎日ほとんど規則正しいリズムで睡眠と覚醒(起床)を行なうことができるとされています。
なお、人間の体内時計は約25時間周期です。単純に考えると、一日あたり約1時間ずつ寝付く時刻と起きる時刻が遅くなってしまいます。しかし、体内時計は光や食事・運動などの外部刺激によって調節を行ない、1時間のずれを修正することで、24時間周期に対応できるようになっているのです。
このように、体内時計がうまく働いていれば、人は決まった時間に目覚め、眠ることができるといえるでしょう。
2.起きられない原因と対処法は?
では、起きられない原因にはどのようなものがあるでしょうか。ここでは、その代表的な原因と対処法についてご紹介します。
2-1.体内時計の調節異常
体内時計の調節異常が起こっていると、起きることが困難になってしまいがちです。
体内時計を調節するのに必要な外部からの刺激は、おもに光によるものだといわれており 、夜に明るい照明で過ごすことが多い・日中も暗い部屋で過ごすなどの環境では、体内時計に調節異常が起きやすくなります。 そして、体内時計が乱れた状態が続くことにより、起きられないという悩みにつながっていくことになるのです。
対処法としては、意識的に光を浴びるようにすることがおすすめです。特に起床した後の光は体内時計を早めるために大切な役割を果たしています。 起床後は、カーテンを開けて光を浴び、体内時計を調節するようにしましょう。
その他にも、運動や食事、学校や仕事などの社会的活動も体内時計の周期を整える働きがあるので、規則正しい生活を心がけるのも大切です。
2-2.概日リズム障害(睡眠・覚醒リズム障害)
体内時計の調節異常が続き、体内時計と一日24時間である外界の時刻とのずれのために、社会生活に支障をきたすことを概日リズム障害といいます。 概日リズム障害には、そのタイプによって数種類に分けられます。
-
睡眠・覚醒相後退症候群
遅寝遅起きタイプです。寝る時間になっても寝付けず、朝無理に早く起きようとすると心身の不調を呈します 。夏休みなどの長期休み明けに発生しやすく、比較的若い人に多く見られます。
-
睡眠・覚醒相前進症候群
夕方に眠ってしまい早朝に起きてしまう早寝早起きタイプです。 高齢者に多く見られ、加齢にともなう体内時計の機能変化が関係することもあります。
-
時差障害
時差のある場所への渡航により、体内時計と外界の時刻のずれにより不眠や過剰な眠気が生じます。 いわゆる時差ボケです。 その他にも、頭痛・倦怠感などの身体的な不調が見られます。
-
交代勤務睡眠障害
夜勤など、一般的には眠っている時間帯に労働することで、不眠や過剰な眠気をもよおします。
-
非24時間睡眠・覚醒リズム障害
寝る時刻と起きる時刻が毎日30~60分ずつ遅れてしまうタイプです。 この障害を発症する患者は全盲者が多く、網膜から光を取り込めないことで体内時計に影響が生じていると考えられています。視覚に問題がない場合は、睡眠・覚醒相後退症候群の罹患歴があり、太陽の光が遮られやすい環境での生活をしているケースが多い傾向です。
-
不規則睡眠・覚醒リズム障害
睡眠と覚醒のリズムが不規則なタイプです。 4時間以上の継続した睡眠ができず、日中たびたび昼寝をしてしまいます。
これらの治療法として、高照度光治療器などを用い、体内時計の調節を促す方法が選択されます。また、入院して睡眠・覚醒リズムを整えるといった方法も検討されるでしょう。
2-3.自立神経の不調
自立神経は、交感神経と副交感神経からなり、体の内部を調節する神経です。 日中は交感神経が優位になって活動モードとなり、夜が近づくにつれ副交感神経が少しずつ優位になることで休息モードとなります。
このリズムがストレスなどによって乱されると、脳は活動モードのままで休息ができなくなってしまいます。眠っている時間も深い眠りが十分でなく浅い眠りが多くなり、夜中に目覚めてしまったり、睡眠時間はしっかりとっているのに寝た気がしなかったりというケースも見られるのです。
自律神経の不調を整えるには、生活習慣の改善とストレスの調整が大切です。その他にも対症療法や行動療法などの治療もあります。
2-4.起立性調節障害
10~16歳ぐらいの思春期の年齢に 多く、自律神経の働きが不安定なことで体と脳をめぐる血液の循環が悪くなることで発症するものです。特に午前中にだるさを感じ 、朝なかなか起きられずにボーッとしてしまいます。起きあがると立ち眩みや頭痛が出ることもあるでしょう。
成長にともなう生理的現象と考えられていますが、遅刻や欠席など日常生活に問題が現れ始めたら、早めに医師に相談することをおすすめします。
2-5.その他の原因
その他にも起きられないというお悩みには病気が原因のケースが考えられます。これらは、睡眠中に深い睡眠がとりづらく日中に強い眠気が現れるのが特徴です。
-
睡眠時無呼吸症候群
睡眠中に呼吸が止まってしまう病気です。呼吸が止まると血中酸素濃度が低下し、目が覚めて呼吸をし、再び眠るとまた呼吸が止まるということを一晩中繰り返します。睡眠中に深い睡眠がとれていないため、日中に強い眠気が出てきます。
-
レストレスレッグス症候群
夕方から深夜にかけて、じっと静止していると足に不快感が出る病気です。 足を動かすと不快感は消えますが、動かすのをやめてじっとするとまた不快感が出てきます。その症状により、寝付くことができずに不眠や日中の過眠が起きてしまいます。
-
周期性四肢運動障害
睡眠中に片足または両足が定期的にピクピク動いてしまう病気です。足が動くことで、睡眠中に脳波が覚醒反応を起こし不眠や日中の過眠が起きます。本人の自覚がないことが多く、レストレスレッグス症候群と一緒に現れることが多く、年齢とともに増加します 。
もし、ここまでの内容に当てはまる項目があれば、医療機関での検査・治療を検討してみましょう。
体内時計を調整して健康的な毎日に
起きられないのは甘えや怠けではなく、体内時計の乱れや病気が原因であることがわかりました。
自然と気持ちよく起きるためには、まずは体内時計を意識した生活を送ってみましょう。
体内時計を調節するのに大きく影響するのは光です。朝と夜の光はそれぞれ、体内時計を早めたり遅らせたりして調節できることがわかっています。朝起きたらカーテンを開けて朝日を浴び、夜は照明を抑えるなどの工夫をしてみてはいかがでしょうか。
起きられないことが続くと、社会的な生活に影響が出る可能性も出てきます。まずは、体内時計を意識した生活習慣を心がけて、健康的な生活を維持していきましょう。
監修者情報
氏名:梅村 将成(うめむら・まさなり)
外科医として地方中核病院に勤務中。
消化器外科のみならず総合診療医として、がん治療(手術・抗がん剤・緩和治療/看取り)を中心に、幅広く内科疾患・救急疾患の診療を行なっている。
資格:医師免許・外科専門医・腹部救急認定医