1.スポーツをするときに必要な栄養とは?
国際オリンピック委員会(IOC)は、栄養に関する合意声明で「正しい食事がスポーツに適した体重や身体組成をつくり、各競技での好成績に貢献するだろう」としています。このことから、スポーツと栄養は切っても切り離せない関係であることがわかるでしょう。
運動の際には、大きく分けて2タイプの栄養素が必要となります。1つはエネルギー源となる栄養素で、もう1つは体調管理に欠かせない栄養素です。
エネルギー源になる栄養素は、炭水化物・たんぱく質・脂質です。これらの栄養素は、生命活動や生活活動、スポーツをするときなどに使われます。
そして、体調管理(コンディショニング)に欠かせない栄養素は、ビタミンやミネラルです。これらは微量栄養素とも呼ばれ、さまざまな物質の代謝をスムーズにします。エネルギー源になる栄養素と同様に、生命維持に欠かせない栄養素です。
2.スポーツをする際にエネルギー源となる栄養素とその働き
前述のとおり、炭水化物・脂質・たんぱく質は運動時にエネルギーとして使われる栄養素です。ここでは、この3つの栄養素の特徴を紹介します。
2-1.炭水化物
炭水化物は、持久力や瞬発力が必要なスポーツのエネルギー源として、特に重要な栄養素です。炭水化物が不足すると、体のなかにあるたんぱく質や脂肪がエネルギーに変わるため分解されてしまいます。
そのため、空腹時の運動は、エネルギー不足により集中力低下や疲労感の発生などにつながるだけでなく、筋肉のたんぱく質分解も促進する結果となります。
トレーニングの前後には、ご飯やパンといった炭水化物を補うように心がけましょう。
2-2.たんぱく質
肉や魚、大豆に多く含まれるたんぱく質は、多くのアミノ酸で構成されている栄養素で、体を動かすエネルギー源として働きます。筋肉や骨、血液などの材料となるほか、酵素やホルモンとして身体機能の調整を行ないます。
筋肉をつけるには、たんぱく質が欠かせません。トレーニング後にたんぱく質をとると、より効率良くボディメイクできるでしょう。
2-3.脂質
肉や魚、ナッツ類に多く含まれる脂質は、長時間の運動において効率良く利用できるエネルギー源です。また、脂溶性ビタミンの吸収をサポートする働きがあります。
油脂類は、少量でも高いエネルギーを持っています。そのため、筋肉を増やしたいときはバターやマヨネーズなどを活用すると、食事量を増やさなくても多くのエネルギー摂取が可能です。ただ過剰に摂取しすぎると脂質異常症のリスクも上がるためバランスを考えて取るようにしましょう。
3.体調管理に欠かせない栄養素とその働き
ビタミンやミネラルは直接エネルギーとして使われなくても、補酵素としてエネルギーを生み出すサポートや筋肉をスムーズに動かす手伝いをします。それぞれの栄養素が体内でどのように働いているのか見てみましょう。
3-1.カルシウム
カルシウムは、体内に最も多く存在するミネラルで、歯や骨の原料になるほか、筋肉の収縮をサポートする働きがあります。
不足すると疲労骨折を引き起こすおそれがあるため、怪我無くスポーツをするためにもしっかりと摂取しましょう。
カルシウムは、牛乳・乳製品や小魚のほか、大豆製品や小松菜、モロヘイヤなどに多く含まれています。特に、牛乳や小魚は体内での吸収率が良いため、積極的に取り入れるとよいでしょう。
3-2.鉄
血液中の赤血球は、酸素を運ぶ役割を担っています。鉄は赤血球内のヘモグロビンを構成し、体のすみずみまでの酸素運搬をサポートすることが役目です。
また、筋肉ではミオグロビンとして存在し、必要なところへ酸素を運んだり貯蔵したりして、筋肉のスムーズな動きを支えています。
鉄の摂取量が少ないと、鉄欠乏性貧血を引き起こします。それにより、息切れやめまい、頭痛、動悸、疲労感などの症状が現われ、持久力が必要な運動で力を出し切れないおそれがあるでしょう。
運動能力をしっかりと発揮するためにも、普段から赤身の肉や魚などの鉄を多く含む食品をとることが大切です。
3-3.ビタミンA
ビタミンAは目の健康に役立つほか、皮膚や粘膜を正常に保ち、免疫をサポートする働きがあります。
不足すると、風邪を引きやすくなったり、暗いところでものが見えにくくなったりすることがあるので、しっかりと摂取したほうがよいでしょう。
なお、ビタミンAは、タラや鶏卵、にんじんなどに多く含まれています。
3-4.ビタミンB1
ビタミンB1は豚肉や大豆製品などに多く含まれ、炭水化物がエネルギーに変わるのをサポートする働きがあります。強い負荷をかけるトレーニングを行なうと不足しやすいため、積極的に食事に取り入れましょう。
ビタミンB1が不足すると、最大酸素摂取量が下がってエネルギー効率が悪くなり、疲れやすくなります。スポーツで希望どおりの成果を出すためにも、しっかりと摂取しましょう。
3-5.ビタミンB2
ビタミンB2は、脂質や炭水化物、たんぱく質をエネルギー源に変える際に関わる栄養素です。なかでも、脂質の代謝に関わるため、運動を長時間行なう際は積極的に摂取するとよいでしょう。
うなぎや鶏卵、牛乳のほか、納豆にも多く含まれています。
3-6.ビタミンC
ビタミンCは鉄の吸収を助ける役割があります。軟骨や皮膚、腱などを構成するコラーゲンの合成にも重要とされています。その他、ビタミンCには抗酸化作用や抗ストレス作用もあります。
ビタミンCを多く含む食品は、ピーマンやブロッコリーなどの野菜や、いちごやみかんなどの果物です。
栄養素を上手に活用して効果的なスポーツを
運動のパフォーマンスを上げるには、トレーニングだけでなく体づくりやコンディションを整える栄養素をきちんととることが大切です。
バランスの良い食事で、炭水化物・脂質・たんぱく質やビタミン・ミネラルを摂取して、効果的にスポーツを楽しみましょう。
監修者情報
氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。