1.60代の体の特徴
ここでは、60代になると身体的にどのような変化が起こりやすいのかを見ていきましょう。
1-1.基礎代謝量の減少
人間が一日で消費するエネルギーは、大きく分けて以下の3つです。
人間の一日の総エネルギー消費量のうち、多くの割合を占めているのは基礎代謝量ですが、一般的には加齢にともない減少するとされています。これは、加齢とともに筋肉量が減少したり、各内臓の代謝率が下がったりすることなどが原因です。
なお、筋肉量が少なくなると基礎代謝量だけでなく、身体活動におけるエネルギー代謝量の減少にもつながります。
1-2.フレイルのリスクが高まる
フレイルとは、加齢にともない体力が低下し、ストレスに弱くなったり、病気になりやすくなったりする状態で、65歳以上の約1割がフレイルの状態との調査結果もあります。
ただし、フレイルには、まだ明確な判定基準は設定されていません。判定基準の一例を挙げると、以下の5つのうち、3つ以上に該当するケースがフレイルと判断されます。
-
・体重の減少
-
・筋力の低下
-
・疲労感がある
-
・歩く速度の低下
-
・身体活動の低下
1-3.低栄養のリスクが高まる
低栄養とは、食事量が減ることで体に必要な栄養が十分に摂れていない状態です。高齢期になると食べる量が減少し、低栄養になるリスクが高まるという調査報告があります。
低栄養になると、体力の低下をまねき、活動範囲を狭めてしまったり、病気がある場合には治療を妨げたりすることがあるでしょう。その結果、健康寿命を縮めてしまう可能性もあります。
さらに、骨量も年齢とともに減少しやすいため、低栄養になり骨の健康に関わるカルシウムや脂溶性ビタミンであるビタミンD・Kなどが不足しがちになります。特に、ダイエットを繰り返してきた方や、閉経を迎える女性の方は骨量の低下に注意が必要です。
2.60代が健康を維持しながら痩せる方法
ここでは、60代の体に見られるさまざまな変化を踏まえたうえで、健康を維持しながらダイエットを行う方法を紹介します。
2-1.BMIを基準にダイエットの要否を判断する
まずは、「そもそも今の体重はダイエットが必要なのか」を判断することから始めましょう。
肥満度を判定する基準(BMI)では、「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」で求めた数値が25以上なら「肥満」とされます。60代の場合は、BMIが20.0~24.9の範囲であれば食事量を大幅に変える必要はありません。
ただし、BMIの数値が範囲内に収まっていても、以下に該当する方は食事内容を見直してみるとよいでしょう。
-
・お腹周りが基準値を超えている
-
・血糖値や血圧が高め
-
・気力や体力が以前に比べて減少したと実感している
2-2.食事の量ではなく調理法や間食の取り方などを工夫する
食事に関して特に気になる点はない方も、まずは食事記録を付けてみるのがおすすめです。食事内容を可視化することで、課題を見つけやすくなります。
ダイエットをすると食事量を極端に減らす方もいますが、このような方法は低栄養につながるため避けましょう。間食の取り方や調理法を工夫しながら、主食・主菜・副菜のそろった食事を基本とすることで栄養バランスが整いやすくなります。また、お酒は節度ある適度な量にしましょう。
2-3.筋肉量を維持することで基礎代謝を保つ
60代以降になったらフレイル予防や健康維持のために、筋肉量の維持が大切です。筋肉量を維持できれば、総エネルギー消費量のうち約60%を占める基礎代謝量の低下を防ぐことにもつながります。
筋肉量の減少を防ぐためには、一日3回の食事をバランスよく取り、肉・魚・卵・乳製品・大豆製品などたんぱく質を多く含む食品を積極的に取り入れましょう。なお、乳製品や大豆製品にはカルシウムも豊富に含まれています。
2-4.筋トレやバランス運動などの運動を取り入れる
筋肉量を維持するためには適度な運動が大切です。特に、筋トレ、有酸素運動、バランス運動を組み合わせて行なうと効果的とされています。
また、運動は骨の強さを維持するためにも欠かせません。ウォーキングなどの重力のかかる運動や筋トレがおすすめですが、普段あまり運動していなかった方は、ゆっくり始めて徐々に強度を上げていきましょう。病気などで体の痛みなどがある方は、かかりつけ医や運動指導者に相談のうえで行なってください。
60代のダイエットは健康第一で取り組もう
60代の方がダイエットに取り組むときは、基礎代謝量の減少やフレイル・低栄養のリスクなど身体的な特徴を理解しておくことが大切です。
極端な食事制限をしてしまうと、低栄養をまねいて健康を損なう可能性があります。
筋肉量を維持しながら健康的に痩せるためにも、栄養バランスの良い食事を心がけ、適度な運動を習慣にしていきましょう。
監修者情報

氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。