加齢とともに起こりやすい低栄養とは?
原因と対策・予防法について紹介

年齢を重ねるとともに、食事の量が少なくなっていませんか。
中年期とよばれる年齢までは、エネルギーの高い食事は控えることが大切といわれていたかもしれません。

しかし、高齢になってくると栄養の摂取量が少なすぎることによる「低栄養」が問題になりやすいとされています。低栄養になると筋肉量の減少をまねき、さらに要介護リスクを高まる可能性もあるため、早めの対策が大切です。

今回は、加齢にともなって起こりやすい低栄養の原因やその予防法についてお伝えします。

1.加齢とともに起こりやすい低栄養とは?

低栄養とは、私たちが健康的に活動するために必要な栄養素が不足している状態をいいます。

低栄養は高齢になると起こりやすいといわれており、原因としては加齢によって食欲が落ちてしまったり、入れ歯などでかみ合わせが悪くなったり、嚥下障害により食事量が低下したりすることなどが挙げられます。

なお、一般的には加齢にともない脂っこいものよりもさっぱりとした味付けを好むようになる人が多いでしょう。そうすると食事の偏りが起こりやすく、たんぱく質やエネルギーも不足し、PEM(たんぱく質・エネルギー欠乏症)となるリスクが高まりやすくなるのです。

また、食事量が減る要因として、一人暮らしや孤独感による社会的要因、心の不調による精神的要因、その他栄養に関する誤った認識などが挙げられます。また、さまざまな疾病が要因となる場合もあります。

2.低栄養になると健康に悪影響をおよぼす

低栄養になると、私たちの健康にさまざまな悪影響をおよぼすことがわかっています。先述したPEMかどうかは、血液中の血清アルブミン値が一定の基準を満たしているか、体重がどの程度の割合で低下しているかなどから評価されます。
高齢者にとっては、BMI(肥満や低体重の判定に用いる指標)の低下や血清アルブミン値の低下は要介護認定のリスクを高めるといわれているのです。

低栄養の状態が続くと筋肉量が減少し、歩く速さが低下するなど要介護のリスクが高まる「サルコペニア」につながりやすいとされています。

サルコペニアになると、活力や筋力の低下、それにともなう体の機能低下をまねく可能性が示唆されているのです。

それによって活動量と消費エネルギーも減少し、食欲の低下にもつながり、結果としてさらに低栄養状態を加速させることが報告されています。

3.加齢による低栄養を予防する方法

では、どうしたら低栄養を予防できるのでしょうか。ここからは低栄養を防ぐための食事のコツについて解説します。

3-1.食事で必要な栄養を補う

低栄養で懸念されるのは、先述のようにサルコペニア、つまり筋肉量の低下です。その筋肉量の低下を予防するために大切とされる栄養素をお伝えします。

  • たんぱく質

    高齢者の場合、健康を維持するために必要なたんぱく質が十分に摂れていない人も多いことが報告されています。しかし、たんぱく質は体の筋肉量や身体機能に関連があるため、不足しないように摂ることが望ましいでしょう。

  • ビタミンD

    ビタミンDは体内で腸管でのカルシウム吸収を促す働きがあるため、カルシウムの摂取量が少ない日本人にとっては特に重要な栄養素といえます。

    ビタミンDが不足すると、転倒や骨折リスクが上がり、その結果活動量が減ることで筋肉量の減少とサルコペニアのリスクを高めるおそれがあります。

    ビタミンDは紫外線を浴びることで皮膚でも合成される栄養素です。晴れている日は10~15分、曇りの日なら30分程度は外で過ごせるとよいでしょう。

  • n-3系脂肪酸

    青魚などに含まれる脂肪酸の一種であるn-3系脂肪酸は、海外の研究によると、高齢者においては摂取することで筋肉たんぱく合成を促進し、サルコペニアが予防できる可能性があるとの報告もあります。

3-2.食事を楽しめる環境づくりも大切

海外での高齢者向けの調査によると、料理や買い物を頻繁に行なう人はそうでない人と比べて死亡率が低くなることが報告されています。

また食事の役割とは、単に栄養を補給するだけでなく、旬の味覚を味わったり、家族や友人など大切な人たちと会話したりする楽しみもあります。
このように心を豊かにするような食卓は、食欲を増進させることにもつながるのです。

低栄養を予防するには食事環境を工夫しよう

高齢期を迎えると食事の量が減り、低栄養になりやすいことと、それによって体におよぼす悪影響についてお伝えしました。

低栄養の状態が続くと、筋肉量が減少することにつながり、健康を損なうおそれがあります。そのようなリスクを下げるためにも、たんぱく質やビタミンD、n-3脂肪酸などを中心としたバランスの良い食事を心がけましょう。

旬の味覚を取り入れたり、家族や友人と定期的に食事をしたりする習慣をつくるなど、楽しみながらしっかり食事を摂ることができる環境づくりも大切です。

監修者情報

氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。