1.中性脂肪の役割とリスク
中性脂肪の働きと、中性脂肪が増加することで起こりうるリスクを見ていきましょう。
1-1.中性脂肪の役割
中性脂肪の大きな役割の一つが、体内でエネルギー源になることです。
食べ物を摂取すると、私たちの体内では食品中の糖質や脂質からエネルギーを作り出します。余った糖質や脂質は、肝臓で中性脂肪へと変換され、皮下脂肪や内臓脂肪として蓄えられます。そしてエネルギーが必要なときに、体内の脂肪が分解されてエネルギーとして使われるのです。
この仕組みは、食料が満足に確保できない時代であっても、飢餓を回避して生命を維持できるよう人間に備わった機能だといえるでしょう。
体内に蓄えられた皮下脂肪や内臓脂肪は、体温の維持や衝撃の吸収などの役割を担い、外部の環境から私たちの体を守っています。また、中性脂肪は脂溶性ビタミンや、体内で合成できない必須脂肪酸などの吸収にも必要な物質です。
1-2.中性脂肪が増えすぎることで生じうるリスク
中性脂肪は体にとって必要な物質ですが、増えすぎるとやがて生活習慣病などを引き起こすなどの悪影響をおよぼします。血中の中性脂肪の値が150mg/dl以上であれば、肥満の危険因子となる「高トリグリセライド血症」と判断されます。これは、メタボリックシンドロームの診断基準の一つです。
また、中性脂肪が増えると、同じく血中の脂質であるコレステロールのバランスが悪くなります。コレステロールには、善玉のHDLコレステロールと悪玉のLDLコレステロールがあり、一般的に中性脂肪が高い値であれば、HDLコレステロールが減り、LDLコレステロールが増えている状態です。
血液中の過剰なLDLコレステロールは全身をめぐっている間に小型化し、血管の内壁に入り込みます。
さらに、蓄積された内臓脂肪から分泌される生理活性物質が、血糖降下ホルモンであるインスリンの働きを阻害します。つまり、中性脂肪の値が高いと糖尿病になるリスクも高くなるのです。
2.中性脂肪を下げる生活習慣
中性脂肪は、生活習慣と密接に関連しています。中性脂肪を下げるには、以下のポイントを見直しましょう。
2-1.健康的な食生活
糖質や脂質の摂りすぎはエネルギー過多となり、中性脂肪を増加させる原因になるので気を付けましょう。特にジュースなどのソフトドリンクは糖質が高いため、ジュースを日常的に飲む習慣がある方は注意が必要です。
積極的に取り入れたい食材は、青魚や大豆製品です。青魚に含まれるDHAやEPA、大豆製品に含まれるレシチンなどは、中性脂肪を下げる働きがあります。
2-2.節度ある適度な飲酒量にする
アルコールも、中性脂肪に影響を与えます。摂取したアルコールはおもに肝臓で代謝されます。適量の飲酒であれば中性脂肪の値に大きな影響はありませんが、節度を超えた過度の飲酒の場合、アルコール量に比例して中性脂肪が増加すると考えられています。
厚生労働省が推進する国民健康づくり運動「健康日本21」では、一日あたりの節度ある適度な飲酒量は、一日平均純アルコールで20g程度としています。
ビールであれば500mlの中ビン1本、日本酒であれば1合(180ml)、ワインであれば2杯弱(200ml)程度が目安です。
2-3.運動習慣を身に付ける
中性脂肪を下げるためには、ウォーキング・ジョギング・水泳・自転車などの有酸素運動の種目を行なうとよいでしょう。
これらの有酸素運動を一日合計で最低30分、毎日継続することが理想的です。毎日は難しくても、週3回は継続できるようにしましょう。
特におすすめなのが、誰でも簡単にできて継続しやすいウォーキングです。時間と場所を選ばず、自分のペースでできるため、日常的に運動習慣がない方でも取り組みやすいでしょう。
ウォーキングをするときはあごを引き、胸を張って背筋が伸びることを意識し、肘は直角に曲げ、前後に大きく振りましょう。
ウォーキングの速さは通常の歩行、あるいはそれ以上の速度が推奨されています。心血管疾患や骨・関節周辺の疾患などの持病を持っている方は、掃除や自転車で買い物に行く、子どもやペットと遊ぶなど、日常生活のなかで無理せず体を動かすことから始めましょう。
中性脂肪を下げる生活習慣を心がけよう
中性脂肪は、必要なときに分解されてエネルギー源になるほか、体温の維持や衝撃の吸収などさまざまな働きがある物質です。しかし、中性脂肪が増えすぎると、生活習慣病や糖尿病などのリスクが増大します。
中性脂肪は、生活習慣の見直しで改善できる余地があります。中性脂肪が気になる方は、食生活や飲酒量、運動習慣などを見直して、余分な脂肪をためこまないように心がけましょう。
監修者情報

氏名:井林雄太(いばやし・ゆうた)
総合病院勤務。大分大学医学部卒。
日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。現在は医師業務のかたわら、正しい医療情報を伝える啓発活動も市民公開講座など通して積極的に行なっている。